利用者の声

金森淳一
シニアセクターアナリスト
岡三証券
「ネット販売の可視化」に期待

まず始めに、金森様は業務の中で経済統計は頻繁に使用されていますか。また、どのように使用しているのか、教えていただけますか。

様々な統計を使用して、マクロとミクロの両側面から分析するのが基本的な作業になります。
例えば、マクロなアプローチは全体像を把握し、トレンドの大枠を掴むのに有用で、家計調査などの統計を参考にしています。ただし、これだけでは各個別の企業間格差は見えづらいのが弱点です。同じ地域でスーパーを展開するA社とB社があるとすれば、月次販売状況が同じであるとは限らず、全く異なることがあります。経済がどういう状態であるかに関わらず、企業間格差が出ることが通常です。 このような差異に注目する時はミクロなアプローチを取り、個別の企業業績に目を向け、大手販売企業の月次販売状況などのデータを活用しています。

参考になります。マクロとミクロの二つのアプローチがあるとのことですが、金森様は特にマクロへ力点を置いていらっしゃる印象があります。

日本のスーパーは海外と比較してプレイヤーが圧倒的に多いのが特徴です。そのためスーパー間で単純な価格競争になることも多いのですが、他方で各小売業者が販売戦略を練る時は、何を参考にしているかを意識するようにしています。
大手企業のマネジメント層では従来、現場環境を重視する方が多かったのですが、最近はマクロな経済統計を重視する方が増加しているようです。つまりマクロな視点から全体的な雰囲気を掴み、戦略を練っているということですが、我々が業界の方とのディスカッションに参加する時、相手が注目している統計もしっかり把握することは非常に重要だと言えます。

それで色々な統計を参考にされているのですね。普段、統計を分析する時、もどかしいと感じることはありますか。

一言で言えば、「データが出るのが遅すぎる」ことに尽きます。大体の政府関連統計は一ヶ月ほど遅れてしまいます。遅い時では3ヶ月遅れの場合もあります。昔の経済は半期や四半期の統計でざっくりと動いていましたが、現在では足下の方向感を掴むのには不十分でしょう。最新のデータが一ヶ月前の物となると、時系列のマッチングが非常にやりづらくなる、ということが本音です。

やはり速報性は重要ですね。国の統計改革の議論で家計調査のサンプルのバイアスやインターネットの消費動向の把握が不十分な点など、制度面も話題になっていますね。特にインターネット消費を把握することにもどかしさを感じていらっしゃいますか。

そうですね。速報性とは関係なく、年次ベースで規模だけ確認することであれば、民間の調査会社の部門別データだけ見ることはありますが、インターネット上における消費の全体像を把握する取り組みは今まであまりなかったのではないでしょうか。

今回の取り組みでは、インターネットの消費動向を一つのキーポイントとしています。インターネットの消費動向は小売株を専門とするアナリストにとって重要な情報だとは思いますが、金森様のように実店舗における消費動向を見ていらっしゃる方は、インターネット上の消費が小売株へ与えるインプリケーションについてどうお考えですか。

2つの見方があります。アメリカでECが流行し始めた時、「クリック・アンド・モルタル」という言葉が注目されました。クリックはインターネット、モルタルは実店舗を意味していますが、インターネットと実店舗でのビジネスを組み合わせることで相乗効果を得るビジネス・モデルを指します。消費者はインターネットと実店舗を両方利用するので、どちらかに偏ることはありません。二つのマーケットは競合していると同時に併存しているので、私のように小売りを担当している者がどちらか一方のみ注目することもありません。
物販のデータ上では売上が伸びていないように見える商品でも、インターネットでは売れていることがあります。例えばある小売店のネット販売では米と水がトップですが、これは店頭で買うよりもインターネットで買った方が消費者にとって便利だからです。そのため、仮に実店舗で水や米の売上が悪くても、インターネット販売と組み合わせれば、全く違う数字になるのかもしれません。
インターネット関連の統計はリアルタイム性に欠けているので、整合性が取れると、ひと味違う分析が可能になるのではないでしょうか。

JCB消費NOWは5月から提供し始める予定ですが、使用についてはどうお考えですか。また、最大のメリットは何だとお考えですか。

せっかくなので使いたいと思っています。
最大のメリットは、簡単に言えば、「ネット販売の可視化」です。
JCBは日本の大手カード会社なので、貴重なデータをたくさん持っているはずです。このデータに期待しています。

塚本 憲弘
ヴァイスプレジデント
三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券
経済のトレンドを確かめるためのデータ

まず始めに、消費動向を調査することは、お二人の業務の中でどの程度重要なのか、お聞かせ頂けますか。

国内の動向を見るにはひとつのコンポーネントとして個人消費の動向は重要ですので、マインドデータと、ハードデータを併せて見ています。
消費が、長い目で景気の山谷を生み出すと認識しています。
例えば、米国では小売売上高という統計を踏まえて、金融政策の動向を見ることが多いです。勿論、直接株価の予想やGDPを予想するという意味でも大事ですが、金融政策の動向を予見するという意味でも非常に重要です。

それは日本でも同様です。ただ、日本の場合は最終的にはインフレにつながる気配が感じられるかどうか、というところが大事です。その意味でCPI等の物価統計と併せて消費統計を見て、日銀の政策判断を予見する重要な判断材料にしています。

例えば、企業が値上げした時に売り上げが落ちる経験をしてしまうと、その後、再値下げに戻ります。逆に値上げしても消費が落ちていない、というのが確認できれば消費活動、物価上昇の基調が強いということで、日銀の追加緩和が遠のいたのではないかということを予見します。

例えば株を見る上で、特定のセクターの株価が、「上昇する・下落する」かを見極める際、マクロの消費データなどをご覧になることがありますか。

全体感を見るためにマクロ統計として、例えば百貨店の銘柄を見る上で百貨店協会が発表する月次の売上高は必ず確認します。さらに当社の場合は、中長期の投資戦略の立案が重要になるため、単月ではなく長い目線でこの業界がどうなっているのか、トレンドは何なのか、という関心を持ってマクロ統計を活用しています。

例えば政府が行っている商業動態統計や家計調査があったり、各業界が行っているスーパー売上高、百貨店売上高があったり様々なデータがあります。現状、課題と感じていらっしゃることはございますか。

まず、これはアメリカも同じだと思うのですが、サンプリングに課題があり、例えば、家計調査は調査の対象としている人たち自体に偏りがあるのではないかと感じています。
その点、そういった偏りが少しでも是正できるよう、サンプルの幅を広げてほしいですね。
そして、新しい消費形態もその都度感応度高く反映させていく、もっともっとスピーディーでビッグなデータを獲得することができれば良いと思います。

家計簿を全て見られるのなら別ですが、例えば、根本的な消費の仕方の変化を指し示す部分として、ラクマやメルカリのようなCtoCが今後も増えるとなると、それをどのように捉えるか、株式市場を見る上で非常に重要です。

いわゆるシェアリングエコノミーは、事業者が介在していない以上、わかりにくいところがあると思います。
それがわかるようになると、本当に日本の消費スタイルが変化したかどうかがわかるようになるということですね。

その通りです。
我々はエコノミストと違い、純粋なマクロ調査ではなく、投資戦略を立てるのが仕事です。従って、ルーチンとしてある程度経済指標を見るけれど、それと同時に必ずマーケットのコンセンサスをチェックします。だからこそ、今の統計では捉えられていない動きを捉えることには非常に関心が高いのです。

例えば、クリスマスシーズンで、既存の経済統計を見ると、数字が思っていたより低かったとします。それに対してマーケットは素直に「消費が弱いんだ」と解釈して反応したとします。しかし、私たちは本当にそうかと疑うわけです。物理的に店舗に行かなくなっただけで、逆にオンラインの消費が伸びているから、それを含めるとむしろ去年より消費が多いぞという分析をします。現状、このような分析ができるデータは決して多くありませんが、そういうことが出来れば投資戦略を立てる者として、業務の幅が拡がると思います。

今回のJCBとナウキャストの取組みについてどのようにお考えでしょうか?

非常に期待しています。
例えばモノ消費、コト消費みたいなテーマってよく話題になるじゃないですか。そういった消費のトレンドを捉えることが出来ると思います。例えばクレジットカードの特性を使って男女別で消費活動を見ることが出来れば、世帯の中で男性が服を買えるようになったというのは本当に景気好転の兆しかもしれない。年齢別で見ることが出来れば、シニアの層、貯蓄はあるけど今まで時間がなかった人たちが消費を活発に行い始めるかもしれない。そういう仮説を立てることもできますし、その仮説に対して実際にどうなんだろうという検証をするデータになり得ると思います。既存の情報では、どうしても定性的なものに頼らざるを得ません。ここを変えるポテンシャルを感じます。

今後の展開についてアドバイスを最後にお願いできますでしょうか。

指数として多様性があるといいと思います。今や大量生産・大量消費の時代ではないので、ヘッドラインの消費のパイの動向だけ見てもトレンドをつかめません。年齢別、男女別、地域別と様々な切り口でみると、それぞれの動きがバラバラに見えてくると思います。政策的な観点でも、あるいは投資判断という観点でも、全体をざっくり見るのではなくて、セグメント毎にみることが必要だと思います。

消費統計という話になると、どうしても平均値的な見方をしてしまいがちです。

必要とされているのは逆ですね。
大量生産、大量消費の時代であれば、より画一的なプロダクトをみんながみんな購入するという世界だったので、それでも十分分析に足る部分はあったかもしれません。しかし、現代はかなり消費が多様化して各セグメント毎にメーカーも小売りチャネルも特化しているから、セグメント毎に消費活動を把握しなければ、外部環境としての需要の浮き沈みを把握しづらいわけです。

例えば、「爆買い」というのがありますが、これは投資テーマとしては非常に大きい。しかし、消費全体の平均値でみては把握ができない。だから外国人観光客という特定セグメントに絞った消費動向を見たい訳ですが、今まではデータの制約があるが故に、定性的に論じるしかないテーマでした。そういったものをビッグデータが解決してくれればこれは大きい。このように投資テーマに沿ったセグメント毎のサブインデックスを分析できると非常にありがたいと思います。

北岡 智哉
シニアエコノミスト
みずほ証券
小林 亮
アナリスト
みずほ証券
政府統計や業界統計などの統計と比べることで、
面白い情報が眠っている

現在、個人消費の分析はどのようにして進めていらっしゃるのでしょうか。

目的によって違いますが、GDP予測であれば家計調査や業界統計を使います。しかし、月次や四半期の変動を追うには使うに堪えず、信頼性・正確性に疑問を持ちながら使用しているのが実情です。また、日銀の消費活動指数は公開が40日後と少し遅いとも感じています。一方、業界統計についても、百貨店、スーパー、コンビニは20日後、外食は25日後に公開であり、速報性は評価していますが、サービス消費をみることができないため網羅性には限界があると感じています。

個人消費を示す統計の中でも特に重要な統計となると、
どのようなものがあるでしょうか。
例えば、家計調査や商業動態統計、あるいは訪日外国人観光客数などでしょうか。

それらの統計への関心は高いです。報告書を見る限りは四半期のある期間に空港でインタビューを行うという形式のため、かなりバイアスのかかっている統計ではあると思いますが、速報性があって有用だと思っています。10-12月の数字が1月に出てくるのというのは早いと考えています。

バイサイドの方とコミュニケーションをする上で先程のような情報が話題になることはありますか。
また、課題に感じているポイント等はありますか

商業動態統計や家計調査等の定量的なマクロ情報も話題になりますし、アナリストから情報を仕入れて、今月の外国人消費が芳しくない等の定性的な情報も話題になります。

しかしこうした情報には、バイアスがあるという課題があります。定性的な情報にバイアスがあることは勿論、定量的な情報についても回答する人がある程度特殊であり、サンプルにバイアスがかかっています。

例えば、家計調査では毎日家計簿をつけることがどれだけ一般的なのかという問題もあります。サンプル数を今の100倍くらいにするか、今の家計消費状況調査のように、月1回家計簿を記入する方法にするとよくなると考えています。また、家計調査も2人以上世帯がデフォルトであり、世帯数の約三分の一を占める単身世帯を考慮できていないという問題が残ります。そういう意味ではサプライ側のデータ、つまり商業動態のほうに信憑性がありますが、サービス消費は含まれないため、どちらの統計調査においても色々と課題は残ります。

サービスの中でも様々なものがあると思いますが、
その中でも関心の高いものはありますか。

テーマパークやホテル、フィットネスクラブ、介護などにも関心がありますが、特に関心が高いのはオンラインサービスです。しかし残念ながら情報が不足しており、分からないことが多く存在しています。

インターネットサービス会社を分析する場合は業界統計が無いために情報が不足しているように思います。

その通りです。例えば、ゲーム業界はゲームの予約状況とかで見ることはでき、テーマパークは月次の入園者数などで見ることができます。また、スピード感等の問題はありますが、交通機関や輸送機関などは統計があります。

しかし、オンラインの会社の場合はそういった情報を見ることができません。

オンラインサービスを分類してインターネットの動向をはかる上では、規模感がわかればいいと考えています。例えば、1万人のデータがあって、1年間で何億円くらいになるなどです。家計調査によると8000世帯で年間30億円の消費があり、そこからインターネット消費がどのくらいの規模感になるか考えられると興味深いと思います。

今回の取り組みで期待したいポイントや先ほど頂いた課題に対して、どのようなデータがあれば解決につながると思いますか。

カード情報は興味深いと思っています。例えば、政府統計や業界統計などの統計と比べてどれくらい乖離があるのかという点です。乖離しているほど、そこに面白い情報が眠っているかもしれないと思います。

また、既存統計にはサンプルにバイアスがあるという課題がありましたが、「JCB消費NOW」では家計調査特有のサンプルバイアスを解消できると思います。さらに、スーパーはともかく八百屋でカードを使う人は少ないでしょうから、野菜の価格変動などは極力除去されるでしょう。これにより、投資のテーマにそぐいやすいと思います。

ただし、家計調査とは異なるサンプルのバイアスも出て来ると思います。例えば、年齢などです。ただ、前年比のデータがあれば、それはなくなっていくと思います。

一方、カードが使われやすい業種に偏る可能性があるため、データに偏りが生まれることが考えられます。また、時系列的にカードの消費割合が増えているため、そのトレンドを排除する必要があります。

ご指摘の通りです。
その点は、カード使用割合に応じて割り当てて調整をしようと思っております。投資のテーマとしては、インバウンド、ゲーム、あるいは女性の社会進出などがあるのでしょうが、どのようなデータセットが作れると思いますか。

性別・年齢、そして利用業種を組み合わせて特定の投資テーマカテゴリなどが作れそうな気がします。データセットに「単価」の情報がついてくれば高価、安価といったエッジが出てくると思います。

渡辺 努
東京大学大学院経済学研究科教授/株式会社ナウキャスト技術顧問
「高精度かつ迅速な統計を」という
時代の要請に沿う画期的なサービス

マクロ経済の中で、消費分析はどの程度重要なものなのでしょうか

経済社会の登場人物は大きくわけて家計,企業,政府です。社会の幸福として目指すべきは家計が幸福になっているかです。
例えば,企業部門がたくさん儲かって内部留保がたまったとしてもそれだけでは社会として幸福とは言えません。同様に,政府部門におカネが集まって(例えば税金がたくさん入ってくる)潤ったとしてもそれで社会が幸福になったとは言えません。あくまで大事なのは家計部門です。
では家計部門の幸福をどうやって測るかというと,ひとつは所得です。家計の所得が増えればそれは良いことです。しかし家計部門の所得というのはまだピントが少しずれています。所得が増えて貯金が増えればそれでいいかというと決してそうではなく,やはり最終的には稼いだおカネを使うことによって幸福が高まります。もちろんおカネが全てではありません。おカネでモノを買う以外の要素も幸福には深く関係してきます。
しかし資本主義社会である以上,やはりおカネでモノを買ってそれが人々を幸せにするという側面が大事です。「消費」というのは人々がおカネを使う行為を計測した統計ですから,上に述べた意味で,人々の幸福度合いを測っているとも言えます。

こういう認識を政府や中央銀行はもっているので,その国の「消費」がどうなっているのかということには特別な意味があります。国の経済活動を測る統計としてはGDP(国内総生産)というのがあり新聞などにもしばしば登場しますが,「消費」はGDPの最も大きな部分(6割)を占めています。
そのため,景気の良し悪しを判断する際には「消費」がどっちの方向に向かっているかが重要なポイントになります。

これまで日本では、個人消費の動向を把握する場合はどのようなデータを見ることが一般的だったのでしょうか

最も広く使われているのは総務省統計局が行っている家計調査です。
これは1万世帯弱の家計に家計簿をつけてもらって何にどのくらい使っているのかを調べるというものです。家計調査はGDPの消費を推計する際の原データとしても使用されています。この家計調査に協力してくれる人を探すのは難しいと聞いています。皆さん日々の生活に忙しいのでなかなか政府の統計作成に協力する余裕がないのかもしれません。回答者の負担が軽くないという点は克服すべき課題です。
家計調査以外では経済産業省が行っている商業動態統計というのがあります。家計調査は家計の側から消費の数字をつかもうとするのに対して商業動態統計はモノを売るお店の側から消費の数字をとろうとするものです。購入と販売というのは当然密接に関係しているものですが,乖離することも少なくありません。
例えば,最近はだいぶ下火になったと言われている爆買いですが,これは販売サイドである商業動態統計には現れる一方,購入サイドである家計調査には現れません。
また,両方に共通する難点としては公表が遅いということが挙げられます。現代の生活やビジネスの統計の速度が追いついていないということです。

政府では、経済統計改革の議論が盛んですが、
消費統計についてはどのような議論が行われていますか

2017年1月に統計改革推進会議というのが発足し,菅官房長官を中心に統計の全面的なリニューアルの作業が進んでいます。私もメンバーとして参画しているのですが,かなり大掛かりな取り組みと言ってよいと思います。どうしてこんなことが始まったのかというと底流には2つの要因があります。

第1は,経済成長率の鈍化です。日本経済はかつては高い成長率だったわけですがここ20年ほどは振るいません。経済成長率の数字は毎年ゼロの近くをウロウロしています。景気が悪いとマイナスになり,少し持ち直すとプラスになりという具合で,いずれにしてもゼロの近くというわけです。しかしマイナスとプラスでは大きく意味が違うわけで,マイナスであれば適切な対策を政府や日銀が打たなければいけない。そうなると,マイナスなのかプラスなのかを精緻に測る必要が出て来る。一昔前のように毎年10%も成長しているのであればその周りで少々数字が動いても騒ぐことではない。だからさほど精密に測る必要もない。しかし今のようにゼロを挟んで数字が微妙に動くとなると精密な計測が必要で,そのためには精度の高い統計が必要になってくるというわけです。実はこれは日本だけの話ではなく主要先進国はどこも似たり寄ったりで,グローバルな課題になっています。

第2は,統計にリアルタイム性が求められるようになっているということです。
先ほども触れたように,現代の生活やビジネスでは情報通信技術の発展を背景として速度がどんどん上がってきています。迅速な意思決定が求められているということです。ところが統計の世界はまるで時間が止まってしまったかのような有様で,戦前または戦後まもなくの頃に決められた流儀が今も残っています。
統計は継続性が大事なのである程度の保守性はやむを得ないと思うのですがそれにしても現状は遅れがひどすぎます。その結果,ビジネスや生活の現場では国の作成する統計が活用されないという事態が起きています。
例えば2か月遅れくらいで何かの統計が出てきても,それは既に過去の話なので,いま現在の意思決定を企業が行う際には役に立たない。これではまずいということで統計の迅速化を図ろうということを政府も考え始めたわけです。

今回のJCBとナウキャストの取組みについて、どのようにお感じになりますか?

今回の取り組みは「高精度かつ迅速な統計を」という先ほど申し上げた時代の要請に正に沿うものだと考えています。
私は東大の同僚の柳川範之教授と「統計の民営化」というコンセプトを提唱しています。どういうことかと言うと,これまでは統計と言えば政府の専売特許だった。データを集め加工し公表してという全てのプロセスを政府がやっていた。民間では不可能あるいはあまりにコストがかかるので政府しかやれなかったのだと思います。
しかし今やデータは民間の方にたくさんあり,それを解析する技術も民間にある。そうであれば統計を政府の専売にするのはもうやめて民間に開放すべきだ,こういうことです。今回の取り組みは統計の民営化の第一歩だと見ています。

ただ,この取り組みを進めるJCBとナウキャスト両社に考えておいて欲しいことがいくつかあります。
第1は,クレジットカードデータから読み取れる情報を上手に抽出することを心がけていただきたい。個々の利用者の利用額を集計することによって日本経済全体の消費の動向が見えてくるのは間違いないことです。しかしそれだけではいかにももったいない。
例えば,ある月に全体の消費額が10%増えたとしましょう。利用者全員が利用額を10%増やしたのかもしれませんが,そうではなくて,大口の利用者が20%くらい増やしてそれが全体の平均を引っ張ったのかもしれない。
前者であれば多くの人の幸福度が上がったと言ってよいが,後者であれば一部の限られた人の幸福度が上がったに過ぎない。もっと言えば,後者の場合は利用者間の消費の格差が拡大しているので社会的には望ましくないという面があります。
これは一例に過ぎませんが,言いたいのは,利用額を闇雲に集計してしまうと大事な情報が消えてしまうことがあるということです。折角のビッグデータなのですから,それがもっている全ての情報をうまく吸い取るという技術を確立して欲しいです。

第2は,データの癖という問題です。
家計調査のような国の統計はサンプルの規模が小さいという難点はあるものの,色々な人から遍くデータを集めるというところに細心の注意を払っています。これに対してビッグデータは企業が業務を営む中で派生的に生まれたものなので,広く遍くというわけにはいかず,どうしても偏りというか癖というか,そういうものが含まれています。これを放置すると,出てきた数字が日本経済の姿を適切に映さないということになってしまう。クレジットカードデータもこの例外ではなく,そのカードを保有していない人の経済活動はそこには反映されません。
こういう癖はサンプルバイアスとよばれていて,その除去のための統計手法がいくつか提案されています。しかし残念ながら現状では万能な手法はありません。

上記2つのポイントはいずれも技術的に非常に難しい問題をはらんでいます。今回はビッグデータ解析のノウハウと豊富な経験をもつナウキャストが取り組みに参画しており,それらの問題解決に挑戦します。私自身、積極的に知見・ノウハウを提供し、この取組を支援したいと考えています。決してやさしくはないでしょうが,どんな成果が出て来るか今から楽しみです。
統計改革推進会議では,ビッグデータを使って経済統計を作る試みをいくつか立ち上げようとしていますが,今回の取り組みがその模範になることを期待しています。

酒井 才介
調査部 経済調査チーム 上席主任エコノミスト
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
嶋中 由理子
調査部 経済調査チーム エコノミスト
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
サービス消費の直近の動向を細かく拾えるので、
景気の現状把握や景気予測に重宝

どういった目的・用途で 「JCB消費NOW」を活用されていらっしゃいますか。

酒井様:
我々はエコノミストですので、毎週あるいは毎月、足下の経済指標を見て景気の基調判断をしています。消費に関しては、財やサービスの消費を定期的にウォッチしており、クレジットカードの決済データでタイムリーに消費動向が見られる「JCB消費NOW」は重宝しています。

定期的なレポートのほか、テーマのタイムリー性とタイミングを重視して出すレポートでも活用しています。例えば、6月に公表した「ワクチン接種加速の経済効果」は、ワクチン普及によって先行きに明るい材料が出てくるのではないか、という人々や企業、政府の関心の高さを踏まえ、「今だ」というタイミングで分析しました。

こうしたレポートは当社のウェブサイトに掲載しており、報道メディアやみずほグループ内外の経営者、政府関係者の方々に幅広くご覧いただいています。

嶋中様:
私は日本経済の中でも家計・雇用を担当しております。「JCB消費NOW」は特にサービス消費に着目して使っていて、コロナ禍においては「旅行」「宿泊」「外食」などの動向をよく見ています。最近は、業種や業態ごとに見る機会が増えてきており、そういった面でも重宝しています。

JCB消費NOWでは速報性を重視し、半月に1度の頻度でデータを更新しています。その点は政府統計と比較していかがでしょうか。

嶋中様:
景気の先行き予測は我々マクロエコノミストの根幹となる業務です。「JCB消費NOW」の動きは政府統計ともよく合致しており、GDPの基礎統計に含まれるサービス産業動向調査や特定サービス産業動態統計調査などの政府統計の先読みとしても使わせていただいています。

先読みの指標としては、ほかにも「日経CPINow」などの高頻度データや業界統計なども使っています。サービス消費を早期に把握する上では「JCB消費NOW」がかなり優れていると思います。

酒井様:
同じサービス業でも、コロナの影響を受けている業種と受けていない業種とで大きな差があることが今回のコロナショックの特徴だと思っています。大きく影響を受けている業種の動向に対する関心は特に高いのですが、政府統計の公表にはどうしてもタイムラグがあり、足下のデータを早く把握したいというニーズに応えられないのが現状です。また、例えばGDPだと耐久財・半耐久財・非耐久財・サービスという粗い分類しかなく、業種別の跛行性に関心がある場合には十分に対応できません。

その点、「外食」「宿泊」といった細かさでサービス消費の直近の動向を拾える「JCB消費NOW」は、政府統計の情報を補完したり、先行きの予測を行う上で非常にありがたい存在です。

やはり統計ユーザーとしては、経済へのショックが発生したときにどのような影響があるのか早く見たいわけです。政府統計だと通常1ヶ月から2ヶ月遅れ、特にサービスは第3次産業活動指数だと2ヶ月ほどタイムラグがあります。コロナ禍もあり、少しでも早く足元の動向を把握したい中で、エコノミストをはじめ消費データをウォッチする人たちの中で「JCB消費NOW」へのニーズがますます高まっているのではないでしょうか。

お客様からの評価はいかがでしょうか。

酒井様:
今は特にコロナ禍でショックを受けた業種の動向を中心に、分析結果を企業の皆様にご説明させて頂いています。今どれくらいまで打撃を受けていて、先行きどういう回復ペースを辿ることが予想されるのかをエコノミストとして説明することが求められています。

「JCB消費NOW」を使って足下の動向を「見える化」することで、皆様から「非常にわかりやすい」と評価いただいています。そこからさらに先行きの回復ペースを我々なりに分析するわけですが、それに対しても非常に高い評価をいただいています。

また、例えば「今後ワクチンが普及して政府がGoToキャンペーンを再開するかもしれない」というシナリオで先行きを考える場合に、昨年のGoToキャンペーン実施時から足下までの「JCB消費NOW」の動向を踏まえて「過去はこういう動きで足下はこうだから、先行きはこうなるのでは」とつなげて分析するのは、聞き手からしても説得力があり、大きな利点だと感じています。

今のお話は、EBPM(Evidence Based Policy Making - 証拠に基づく政策立案)とも通じるものがあるように思います。レポートが政府機関で活用される事例などは出てきていますでしょうか。

酒井様:
昨年のGoToキャンペーンの効果に関しては、政策実施のタイミングの是非は別として、一時的にサービス消費が盛り上がったことは「JCB消費NOW」でも見てとれます。他のデータでも補完できるとさらに複合的な見方ができますね。

また、「ワクチン普及によってこれくらい人出が増える」という見通しが立てられれば、過去の「JCB消費NOW」のデータとモビリティや人出データを組み合わせて分析することによって将来をある程度予測できます。

実は先日、菅総理に「ワクチン接種加速の経済効果」の内容をご説明する機会があり、「ワクチンが普及したら消費・日本経済にはこういう影響があるだろう」ということを「JCB消費NOW」の対人サービス消費のデータを使って説明しました。また、新型コロナウイルス感染症対策の進捗に関する関係閣僚会議でも有識者として同レポートをもとに説明させて頂く予定です(※)。
※ナウキャスト註:2021年6月30日の第2回新型コロナウイルス感染症対策の進捗に関する関係閣僚会議で説明。

今回は我々の分析がワクチン接種加速という政府の方向性にタイミングよくマッチしたことが大きいと思いますが、民間のシンクタンクが客観的な立場でデータを用いて政策効果を論じるということに関しては、政府サイドからも歓迎する向きがあると受け止めています。

今後の「JCB消費NOW」に期待することや要望がありましたら教えてください。

嶋中様:
これは長所でもありますが、元データがクレジットカードなので、どうしてもクレジットカードで買うものに強みがあるという印象があります。旅行などの高価なものはクレジットカードが使われやすいためサービス消費はよく捕捉できる一方、日用品や食料品などの財消費に関してはそういった面も踏まえて、総合的に見たほうがよいと個人的には感じます。今後キャッシュレス決済の浸透と共にクレジットカード決済が増えていけば、自然と高額消費への偏りは改善されるかもしれませんが。

酒井様:
私は、消費者の属性と消費行動とを紐付けた分析に関心があります。例えばコロナ禍において、ある属性の人は消費が大きく落ち込んだ一方で、ある属性の人はそれほどでもない、といったデータが拾えるのであれば、政策上どういう人に対してどういう支援をすべきかを検討する材料になります。一口で「家計」といっても色々な方がいます。コロナでダメージを受けた方とそうでない方、ダメージを受けやすい方とそうでない方がいますので、そういった消費者の属性と紐付けるようなかたちで「JCB消費NOW」のデータを使えれば、我々の経済分析にも幅が出て多面的な分析ができると思います。

エコノミストとして、今後はどのような調査・分析を行っていきますか?

酒井様:
今後、ワクチンが普及していく中で、コロナ禍から徐々に経済活動が正常化していくフェーズに入っていくと認識しています。そこでのトピックの一つが、いわゆるサービス消費のペントアップ需要です。ワクチンが普及して経済活動が正常化すれば、サービス消費はコロナ前の水準に戻っていきます。さらにプラスアルファとして政府が再びGoToキャンペーンのような需要促進政策を実施する可能性もありますし、これまで長い間人々が旅行などを我慢してきたことの反動がどういったかたちで出てくるのかが、短期的には一つの大きなトピックになるでしょう。今年の後半から2022年にかけてのサービス消費、特にどういう人がどういうところにお金を使っていくのかが、一つの注目点だと思います。

また、コロナ禍で生じた潮流の変化、例えばEC消費の進展などが構造的なものだとすれば、それがコロナ後の世界にも残る可能性があり、構造的変化がどういった形で引き継がれ、どのように推移していくのか、というのは長期的なテーマです。そもそもコロナ禍以前を振り返ると、アベノミクス期でも消費の伸びは弱かったわけですが、これがコロナ後も変わらないのか、消費の裾野を広げていく余地はどこにあるのか、といった点が今後の経済成長を考える上での一つの大きなキーになってくるのではないかなと思っています。

アフターコロナの消費の構造的変化は、非常に気になるテーマですね。

酒井様:
経済が正常化してすべてが元に戻るのか、元に戻らず新しい世界になるのか、一部戻って一部戻らないのか等、様々に考えようがあって、今の時点では正解が無いとは思います。ただ、リモートワークやECといった潮流はコロナ禍において進展しましたが、おそらくコロナ後もそうした流れは一部残っていくのかなと。もしかしたら、ソロ化、要は個人が閉じこもってコミュニティに属さず生活していく世界観があるかもしれないし、それに対応した消費需要が生まれるかもしれません。また、これまでは高齢者のEC利用率は他の世代に比べて低かったけれど、今後は高齢者にもEC利用が浸透していくかもしれない。そうすると高齢者にターゲットを絞った体験型サービスなどの新しい消費体系が現れるかも、などと考えることは非常に面白いですし、それが経済にどのくらいのインパクトを与えるのかをテーマとして追求していきたいですね。

そうした仮説を検証する上で、「JCB消費NOW」はどのような役割を果たしていますでしょうか。

酒井様:
分析のテーマにもよりますが、速報性の高いデータを見ていると、我々の見立てと違った動きに気づくことがあります。例えば、緊急事態宣言が解除されればサービス消費が回復すると思っていたが回復していないとか、逆に我々の想定を超えて回復しているとか。それを見て、例えば「高齢者の方はワクチン接種によって我々が思うよりも活発に動き回って消費しているのではないか?」などと推測します。

実際のデータを見て「あれ?」と思うところから、分析のモチベーションやテーマのアイデアが生まれます。「あれ?」という感覚はすなわち我々の見立てとのズレであり、そのズレをなるべく早く認知するには速報性の高いデータが必要になってきます。そういう意味で、足下の動きをいち早くとらえて「あれ?」というポイントに気づけるという価値を「JCB消費NOW」に感じています。

嶋中様:
時系列でタイムリーなデータがパッと取得できる「JCB消費NOW」のようなサービスは、とりあえずデータを見てみよう、という感覚で分析にあたれる点が魅力的ですね。「これを調べて欲しい」というお客様の要望を受けての分析と、自分の問題意識の中での独自分析の両方で、これからも役立てていけたらなと思っています。

(インタビュー日:2021年6月29日)

中島 信夫
ファイナンス部 シニアファイナンスマネージャー
レゴジャパン株式会社
関連業界のマクロな消費動向がデータで裏付けられ、
アクションプランの議論がスムーズに

「JCB消費NOW」を使い始めたきっかけは何だったのでしょうか。

私はファイナンス部という部署に所属していますが、いわゆる経理や財務ではなく、ファイナンス・ビジネスパートナーとして、セールスやマーケティング、オペレーションなどのチームと密に連携し、ビジネスや消費者の動向、今後の予測を掴みながら、実現していきたいブランド構築に向けてどのようにお金を使っていくかを決める役割を担っています。

世の中には様々なデータがありますが、結局それらを有効的に活用できなければ無駄になってしまうので、我々はデータの購入をあまりしていません。

これまでは、玩具市場のリサーチや取引先との情報交換、ブランドの印象を聞くアドホック調査などを行い、アクションやプランの意思決定の参考にしてきました。しかし去年、新型コロナウイルスの感染が広がる中で市場の動きが流動的になり、社内で持っている情報だけでは何が起きているのか非常にわかりづらくなりました。社内からも、コロナ感染の拡大で足元の動向が見えづらい中で「個人消費の動向を追いたい」「ある程度リアルタイムで情報が欲しい」といった声が上がってきていました。

市場全体の動向としてどこに消費者のお金の使い道が向かっているのか知りたいと思っていた時、日本経済新聞などの報道で参考にされている「JCB消費NOW」を目にし、無料トライアルに申し込んでみたのが最初です。

実際に使用してみると、2週間に1度の更新頻度に加え、サンプル数が実際の市場データとして非常に大きく、業種も相応に網羅されていてブレイクダウンのレベル感も我々の求めるものに合致していました。また、昨対比とインデックスでデータを取得できるところも、使いやすいと感じました。何より、正に我々が欲しかったデータ(※後述の2020年10月の消費データ)のがあったので、無料トライアルから有償会員に移行することにも迷いはありませんでした。

具体的に「JCB消費NOW」をどのように活用されていらっしゃいますか。

半月に1度のデータ更新のタイミングでサービスサイト内から各データをダウンロードし、各業種の推移が一括で見れるよう自社で整えたグラフに落とし込んで、社内のミーティングで活用しています。具体的には、週に1度のビジネスパフォーマンスレビューで足元の消費動向を捉えるための情報のインプットとして毎回「JCB消費NOW」を使用しています。

例えば、去年の10月、すごく売り上げが下がったんです。なぜだろうと「JCB消費NOW」のデータを見た時、ちょうどその時期すでにGo To トラベル事業が始まっていて、消費者のお金の使い道がどちらかというと「旅行」などの「コト消費」に向いていたことがわかりました。そこから「玩具市場自体がその影響を受けて下がっていたため、我々の想定より売り上げが伸びなかった」という仮説が見えてきました。そして、この傾向が続くのか続かないのか、データを一つのエビデンスにしながら次のアクションプランの議論を進めることができました。

マクロのデータから仮説を導き、次のアクションにつなげる。まさに「JCB消費NOW」の理想的な使い方ですね!他にはどんな活用例がありますか。

今年の2月後半から3月頃、我々が手元に持っている限定的なサンプルサイズのトラフィックデータで人出が回復してきていたので、マクロでも同じ傾向が出ているのかを「JCB消費NOW」で確認していました。手元のトラフィックデータに比べると2週間のタイムラグがあるので、先行指標としてではなく裏付けとしての活用でしたが、マクロでの裏付けができたことで「基本軸はオンライン販売だが、人出が回復してきているので、5月のゴールデンウィークは店頭をきちんと構えよう」とか「セール施策を行ったら一定の効果が出るのでは」などのアクションプランの提案や意思決定につながっていきました。

結局、4月後半に大阪で緊急事態措置がとられて多くの店が閉まったため読みは少し外れましたが、人は郊外には出続けていたので、人がまったく外に出なかった1月のようなひどい状態にはなりませんでした。これまで通りECに重点を起きながら、実店舗もある程度準備をするという戦略が結果的には功を奏しました。

昨年全体では、おうち時間が増えたことと弊社のオンラインシフトが進んでいたこともあり、当社の売上はプラスに働きました。「JCB消費NOW」のデータでも「EC」消費の潮流を捉えることはできていましたね。

「EC」という話が出ましたが、「JCB消費NOW」では特にどのあたりのデータに注目されているのでしょうか。

我々は基本的に屋内で遊ぶ玩具を販売しているので、お金の使い道が、人々が外に出て体験する消費に動いているのか、それとも家の中で過ごすタイプの消費に動いているのかを見るためにデータを活用しています。そのため、「小売」「旅行」「飲食」「化粧品」「娯楽」「EC」など幅広い業種のデータをチェックしています。

特に注目しているのは、「EC(オンライン)」と「EC以外(リアル店舗)」の消費データです。EC全体が伸びているのか否かという点を見ています。我々が取引先から得られる情報もあるのですが、さらにマクロな観点から消費をとらえるために注目しています。

また、消費者が可処分時間をどこに使っているか、消費動向がどこに移っているかといった行動変容に関わる業種も注視しています。各業種データでは、「旅行」「飲食」「機械器具小売(家電)」が非常に流動的なので、こういった業種をチェックすることで同じお金の使い道がどこに向かっているのかを見ています。

最後に、基本的に安定して消費される「飲食料品」のような業種も、大きく増減しているものが無いかをチェックしていますね。

社内の方からの評価はいかがでしょう。

業界柄、多くの市場データを得ているわけではないので、データやファクトに基づいたディスカッションがしにくい部分があります。それぞれが個人消費者として感覚的に「なんとなくこうではないか?」という意見を持っていても、議論を進めたところでどれも1意見に過ぎず、その中で「これ」とまとめることが難しい。

でも、「JCB消費NOW」のようなサードパーティから「目に見えるデータ」という情報が得られると、「これがファクトだね」と即座に共通認識が生まれて議論をスムーズに進めることができます。なので、どちらかというと社内からは驚きよりも「感覚としてはそう思っていたが、データで裏付けられてよりしっくりきた」といった、納得感が増したという声が多いですね。エビデンスが1つあることで、より建設的なディスカッションができていると思います。

「JCB消費NOW」のお客様は、市場動向をいち早く把握したい機関投資家などの金融会社が多いのですが、これからは御社のような事業会社様にもご活用いただきたいと思っています。ぜひ、事業会社の視点で「JCB消費NOW」に期待することや要望がありましたら教えてください。

今でも十分期待値をクリアしているのですが、先日、担当の中澤さんから現在検討中の新機能やサービスの話を聞き、その会話を通じて色々と期待することが出てきました。

1番は、やはりデモグラフィック分析です。これができるとさらに魅力が増すと思います。我々のブランドの使用者のデータは購買データからは取得できず、主体はリサーチベースです。業種ごとの消費の動きと同時に消費者の属性まである程度わかれば、さらに一歩進んだインサイトを得ることができます。

また、都道府県別やエリア別の消費の動きも確認できるといいですね。我々はまだ首都圏特化型なところがあり、裾野を広くしていきたいと考えています。そうした時、マクロでエリア動向や傾向を先に認識できると助かります。また足元ですと、首都圏から郊外に人が出ているといった情報はとても役立ちます。

その他、玩具業界が見れたらという細かな点もありますが、今のところ現状のレベルで満足しています。今後も、サービスアップデートの提案の一助になれるよう、データを存分に活用させていただきます。

(インタビュー日:2021年8月25日)

佐々木 儀広
経営管理本部
株式会社ベガコーポレーション
幅広い業種かつ店舗とEC両方の動きをカバーしている点が、
自社のパフォーマンスの客観的な把握に役立つ

佐々木様の業務内容と「JCB消費NOW」を使い始めたきっかけを教えてください。

我々ベガコーポレーションは、「LOWYA(ロウヤ)」を始めとする家具インテリアのECサイトや越境ECプラットフォームを運営する事業会社です。私は経営管理本部という部署に所属しておりまして、経営陣に対して外部環境分析のレポーティングをしたりIR資料を作成したりしています。

昨年、コロナ禍で家具ECの需要が急進し当社の売上も伸びたのですが、どこまでがマクロの環境に起因するもので、どこからが当社固有の伸長なのかを客観的に見たいと思い市場データを探していたところ「JCB消費NOW」を知り、無料トライアルを申し込みました。

業務の中で「JCB消費NOW」をどのように活用されているのでしょうか。また、主にどんな業種をチェックされていますか。

基本的には、データが更新されたタイミングで家具やEC全般など当社の事業領域に近いデータ、あるいは財・サービスなどマクロの消費動向がわかりやすいデータを見ています。自社の受注データと照らし合わせ、自社の受注動向がマクロの環境によってどの程度説明できるのかを検証するために使っています。

他にも大手検索エンジンの検索データやショッピングモール内の家具カテゴリーの販売動向などを見ていますが、「JCB消費NOW」のような取引やお金の動きを直接的に捉えたデータは希少だと思います。また、大手クレジットカード会社の決済データということで、信頼のおけるデータセットですね。

当社はEC専業なので基本的にはECのデータをベンチマークにしています。ただ、ECの動きは、リアル店舗の動きと照らし合わせることで「なぜこう動いたのか?」といった意味をより抽出しやすくなります。家具全般が売れたのであれば、店舗とECで同じような動きになるでしょうし、そうではなくて昨年から続いているコロナ禍の影響で外出できないような状況が非常に大きなインパクトを与えているのであれば、店舗とECの動きは当然乖離してくる。店舗とEC、両方のデータを見て、お客様がどのような動きをされているかを想像しています。

実際の活用事例を具体的に教えていただけますか。

例えば、去年の秋口に売上が思ったよりも伸びなかった時期がありました。8月後半に旗艦店のECサイト「LOWYA」のフルリニューアルを行ったので、その影響で少し売上が伸び悩んだのかというふうにも考えたのですが、他方で同時期にGo Toキャンペーンが行われていて、飲食や旅行に消費が流れたのではないかという仮説も持っていて、どちらなのかを知りたいというニーズがありました。

そこで「JCB消費NOW」を見ると、その時期は家具EC全般が落ち込んでいたことがわかりました。他にも外出の影響を受けそうな業種が落ち込んでいた。一方で旅行や飲食の消費は伸びていたので、秋口の売上減少はマクロの要因に連動していたのだと結論づけることができました。自分たちの仮説通りのデータがきれいに出てきて、客観的に当社の実力を測れたといった点でよかったですね。

自社要因なのかマクロ要因なのかをはっきりとデータで示せるのは、IRなど投資家向けの説明において重要なことですね。

そうですね、自分たちのことを客観視するのは重要だと思っています。売上が思い通りにいかない時期であっても、それがマクロの要因であれば当社の実力値ベースで見れば市場よりもアウトパフォームしている可能性がありますし、逆に売上が伸びていたとしても、それがマクロの要因に引っ張られているだけであって市場よりもアンダーパフォームしていたら安易に喜ぶべきではないでしょう。自分たちの今の実力値を客観的に測るためには、良いデータだけでなく悪いデータも含めて外部データを活用することが重要です。

IR以外での活用事例はありますでしょうか。

売上動向の要因分析において、事業部の持っている仮説を検証する際にも活用しています。事業部は、先ほどお話した検索データやショッピングモール内での販売動向のほかに自社ECサイトのアクセスデータやコンバージョンデータなどの細かいデータも見ていて、それらのデータに彼らの経験値を加えた上で売上の増減を解釈しています。当社のデータ自体が、ある程度家具EC市場全体の動きを示している部分もあるとは思うのですが、当社が特段大きなアクションをしていないのにサイトアクセスに大きな増減が出たような場合は、マクロの要因が影響していると考えられます。

例えば、事業部側が自分たちの売上変動の8割をマクロの要因で説明できると考えている時に、「JCB消費NOW」で市場全体の動きを見ながら、「8割じゃなくて9割では」とか、逆に「7割くらいではないか」というように、大きな乖離がないか検証できます。マクロのデータを使って検証することで、より適切な仮説が見つかり、違うアクションにつながる可能性があると思っています。

「JCB消費NOW」はクレジットカードデータかつ売上というダイレクトに市場に結びつく数字なので、客観的なデータとして信頼を置いています。また、過去のデータまで遡って提供いただけるので、YoYだけでなく、コロナ禍の影響を受ける前の2年前との比較でどうなのか、他の業種がどう動いているか、といったところも合わせて見ることができます。家具ECだけにフォーカスせずに、それ以外の業種も含めて総合的に客観的な分析ができるところに、「JCB消費NOW」の優位性があると思います。他の業種のECがどうなっているのか、リアルの財・サービスがどうなっているのかを示すデータは、家具ECがなぜこういう動きをしているのかを説明するために必要です。

「JCB消費NOW」をお使いになる前は、マクロの動向はどういったデータで把握していたのでしょうか。政府統計などでしょうか。

マクロの動向把握においては、家計調査や商業動態統計などの政府統計、他社IR資料、検索データやショッピングモール内での販売動向などが定点観測の対象でしたが、「家具EC」に絞られ、かつ消費にダイレクトに結びついたデータというのは参照できていませんでした。

ただ、コロナ禍の前までは、家具ECの市場全体が毎年5%くらいの成長率でずっと伸びていて、そんなに大きく市場が動くことがなかった。それがコロナ禍以降、需要が一気に伸びて当社の売上も伸びました。これまでにない大きな動きを前に、当社が市場全体の中で相対的にどの位置にいるのかを把握したいニーズが急激に高まり、「JCB消費NOW」のようなマクロデータが必要になりました。

当社としては、自分たちは市場以上に成長しているし実力もあると思って日々事業活動をしていますが、やはりIRの観点で投資家から「この売上の伸びは一過性なのではないか?」と言われた時に、客観性をもって「一過性ではない」と説得するにはデータがないと難しい。「今はこのように市場が動いていて、その中で我々はアウトパフォームしているんです」と、数字でもって示したかった。実際、IR資料でそれを示すために「JCB消費NOW」を引用させていただきました。このデータが無ければ、「市場は今YoY130%くらい」などと感覚値で言っていても説得力がなかったと思います。

また、当社は現在、旗艦店「LOWYA」を戦略上の最優先に置いており、ECモールの店舗よりも旗艦店の方にマーケティング投資を集中させているのですが、「JCB消費NOW」のデータを見ると旗艦店の方は圧倒的に市場をアウトパフォームしていて、ECモールの方は市場より少し弱い。「JCB消費NOW」を引用することによって、ECモールを含むLOWYA事業全体として市場成長を上回って推移していること、更に、自分たちが注力している旗艦店に関しては非常に良い結果が出ていることを、データで伝えることができました。

それはいいお話ですね!ところで、ベガコーポレーション様には、「JCB消費NOW」の通常サービスには含まれない「家具EC」のデータを追加でご提供しています。経緯をおうかがいしてもよろしいですか。

「JCB消費NOW」の無料トライアルで「家具」や「EC」のデータがあることはわかったのですが、やはりダイレクトに「家具EC」を見たいと思い、無料トライアルを開始して数日後に設定されたウェブ会議で率直に相談させていただきました。そうしたら、実はその時点でもう開発が進んでおり、早速翌月からデータを出してもらうことができました。ただ、最初に提供されたのはIM(一人当たり金額の変化)データだけで、「家具EC」は伸びるどころかYoYが少し下がっていました。「我々の感覚からすると少し違うんですよね」とお伝えしてEM(消費者数の変化)データを加味していただいたところ、我々の仮説と合致するデータが出ました。すぐに営業の中澤さんに「すごくいいです!経営陣まで共有させていただきます」とメールしたのを覚えています。去年はコロナ禍で「家具かつEC」のような業種が非常に大きく影響を受けたので、そこが顕著に変動しているのがわかり非常に良かった。市場がどう動いているかを高い解像度で理解できるデータは、正に我々が求めていたものでした。

本当に理想的に使っていただいて、我々としてもありがたい限りです。最後に、これからの「JCB消費NOW」に期待することはありますか。

過大な要求かもしれませんが、日次や週次などより細かな粒度でスピーディーにデータを提供いただけると嬉しいですね。もちろん今でも半月ごとにデータが更新され、政府統計などに比べて相当粒度が高くスピードも速いと思っています。ただ、当社では受注データが毎日一定時間ごとに全社員に対して配信されています。更に、全社員がBIツールを使い受注データを詳細に分析できるので、市場データもそれと同じくらいの粒度で揃えられればデータ活用のレベルがより一層引き上げられると思います。

我々は、お客様にインテリアを自由きままに楽しんでいただくことを目指していて、そのために品揃えやサービスの強化に日々取り組んでいます。当たり前のことではありますが、お客様の欲しいものが「LOWYA」にあり、かつ「LOWYA」での購入体験に満足いただければ、それが必然的に売上につながっていきます。市場をアウトパフォームし続けるということは、ちゃんとお客様に選ばれ続けている、評価され続けていることを意味すると考えています。だからこそ常に市場と相対化して自社をとらえ、その市場を上回るスピードで成長することにこだわっているのです。自社を客観的に把握しながら経営していくために、これからもデータを活用していきます。

(インタビュー日:2021年9月2日)

仲田 泰祐
経済学研究科 准教授
東京大学大学院
藤井 大輔
経済学研究科 特任講師
東京大学大学院
コロナ禍における経済分析のナウキャスティングに
欠かせない速報性と高頻度性

「コロナ感染と経済活動」プロジェクトでは、どういった目的・用途で「JCB消費NOW」をご活用されていらっしゃいますか。

藤井様:
2021年の1月から始めたプロジェクトでは、新型コロナウイルス感染症対策と経済活動のトレードオフに関する分析を行っています。
コロナの感染状況は都道府県ごとに違うため、都道府県ごとの高頻度な経済データが必要でした。しかし、日本では月次の都道府県ごとのGDPなどというデータは存在しないので、我々で手作りしようと決めて、公的統計データの第3次産業(サービス産業)活動指数や地域別IIP(Indices of Industrial Production: 鉱工業指数)を用いて、月次の都道府県GDPを独自で作成しています。ただ、コロナに関しては直近のデータが必要で、例えばこのプロジェクトのWebサイト上で公開しているのは先週までのデータですが、その「先週までの経済活動」というのは本当にデータが少ないんです。

そこでナウキャストをするために速報性の高い「JCB消費NOW」を使わせていただいています。例えば、現在は7月ですが、5月頃までは他の公的なデータを用い、それ以降は「JCB消費NOW」などを使って更新しています。速報的なデータとして「JCB消費NOW」を使い、その後、公的統計などが発表されたらそちらで置き換えていくかたちです。

別のインタビューで、仲田先生が「最初から毎週更新しないと意味がないと考えていた」とお話しされていました。プロジェクト当初はどのように推計されていたのでしょうか。また、「JCB消費NOW」の活用に至った経緯についても教えてください。

仲田様:
おっしゃる通り、新型コロナに関する動向は状況によっては毎週アップデートしないと意味がありません。でも、ナウキャストの部分は前述のRDEIが無い。都道府県別GDPに関してはそこまで速報性は求められないものの、3ヶ月前のGDPを元に議論をしても仕方ないので、代わりに何かを使わなければということで、当初は人流データを使っていました。問題は、人流と経済の相関関係が変わってきたことです。2020年前半は、人流が大きく動けば同時に経済活動も動くというのがはっきりしていたのですが、2020年後半になると、人流を抑えながらも経済活動を維持できるように変化してきた。人々に行動変容が起き経済活動がコロナ禍に明らかに慣れてきた頃、人流だけを元に最新のGDPをナウキャストするのはよくないと考え、人流以外のデータを取り入れていかなくては、となりました。そこで、「V-RESAS」の中で一部データが無料公開されていた「JCB消費NOW」に注目した、という経緯です。

「JCB消費NOW」を活用することでどのような利点があったか、具体的に教えていただけますでしょうか。

藤井様:
一番役に立っているのは速報性です。また、地域別かつ高頻度なデータというのはすごくよいと思っています。我々は都道府県別GDPというのを生産サイドと消費サイドから個別に作って最後にまとめています。消費データに関しては、RDEI(Regional Domestic Expenditure Index)という地域別支出の総合指数があるのですが、公表は3ヶ月に一度なので数ヶ月のタイムラグがあります。そこで「JCB消費NOW」のデータが非常に役に立つのです。

新型コロナのショックや昨年の動きを見てみても、地域別にけっこう異なるトレンドがあります。例えば、四国の消費だけがほかと違う動きをしていたりなど。そういう地域別のバリエーションも捉えられるというのは、すごく興味深かったです。新型コロナが直撃した都市と、感染者が出ていなかった地方とでは違いがありそうだなとは思っていました。ただ、感染者が全然出ていない田舎の方でも消費がシュリンクしたという話もあって、その差がいったいどの程度なのか、ちゃんと数値で見れるのはよかったですね。

今回のプロジェクトにかかわらず、これからの「JCB消費NOW」に期待することはありますか?実は現在、どこから来た人がどこで消費をしたのかが都道府県別にわかる指数(From To 指数)を開発中です(※1)。

仲田様:
それは非常に面白いですね。今後どこかでGoToトラベルの検討が始まると思いますが、その時に起こり得る議論として、ワクチン接種希望者が接種済みという状況で、医療リソース不足の懸念と経済効果への期待をどうトレードオフするか、という問題があると思います。個人的には、前回のGoToトラベルの効果や感染への影響に関する分析が供給不足だと思っており、ミクロレベルのデータを使ってできれば、より意義ある分析ができそうです。

藤井様:
私も同感です。どこに旅行をして、さらに何を消費したのかがわかることは、コロナ禍における経済分析にとって重要なファクターだと思います。今は、GoToトラベルと感染拡大との因果関係が全く明らかになっていなくて、データやファクトに基づいた議論になっていない印象です。京大の西浦さんがデータを集めたという論文はあるのですが、感染に与えた影響や因果関係まではわからないので、「JCB消費NOW」のようなデータに期待したいです。

コロナ禍によって、高頻度性や速報性を持つオルタナティブデータへの注目度が一段階上がったように思います。平時に戻った後、経済分析におけるオルタナティブデータの重要性はどう変化するでしょうか?

仲田様:
まず、コロナ危機によって、「ちゃんとデータを見て分析して、目下およびこの先の政策を決めなくてはダメなのでは」ということが多くの人に伝わったのかなという印象があります。平時に戻った後に今ほど速報性が求められることは多分無いとは思いますが、データに基づいて政策判断をすることの重要性を、今は全国民が感じているのではないでしょうか。個人的には、コロナ危機が収束してもそういった方向に世の中が向かって欲しいなと思っています。

藤井様:
「JCB消費NOW」の特徴としては3つあると思います。一つは頻度、もう一つが速報性、最後が100万人というサンプル数(※2)です。また、そのサンプルがアンケートではなくて実購買データであることも強い。最後の点は政府統計も参考にすべき点だと思っていて、やはり実際に100万人の人間が使った消費データというのは、仮に高頻度・速報性がなくても、年次であったとしても重要なものです。今ほどの速報性が今後も求められるかはわかりませんが、高頻度性に関してはニーズは色々あると思います。例えば災害時。日本は大雨、洪水、地震が多い国ですが、年次データでは平均化されてしまい、月単位で大きく落ち込んだ後に急回復した、などの細かい動向を捉えられません。災害みたいなケースでは少なくとも月次、欲を言えば週次で、さらに地域別のものを見なきゃいけない。そういうニーズは、これからの日本でかなり出てくると思います。その点、実際に消費した地域やカードホルダーの居住地や実際に消費した地域がわかって、消費への影響をダイレクトに計測できる「JCB消費NOW」は、重要な役割を果たせると思います。

(インタビュー日:2021年7月2日)

※1 2021年11月11日に「JCB消費NOW」リニューアルし、「From To 指数」の提供を開始しました。詳細は以下のプレスリリースをご確認ください。

 JCBとナウキャスト、国内消費指数「JCB消費NOW」をリニューアル

※2 現在のサンプル数は約1000万人。

松本 宗寿
リサーチ運用部 リサーチ運用部長
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
投資判断の仮説構築、検証の触媒の役割を果たす
JCB消費NOW

松本様が普段どのような業務をされているのか教えてください。

三井住友トラスト・アセットマネジメントは、総運用資産およそ85兆円のアジア最大級・日本ナンバーワンの資産運用会社です。私が所属するリサーチ運用部は、企業調査やマクロ分析などを行い、運用判断・投資判断に資する情報発信をすることをミッションとしています。

当社リサーチ運用部の組織は、株式アナリストとクオンツアナリストを同一の組織内に要していることが特徴的です。この組織の形をとることで、オルタナティブデータをはじめとした様々なデータの活用や仮説検証を広範に行うことができていると自負しています。こうした組織の形をしている運用機関はないと思います。

どのようにしてそうした組織の形になったのですか?

この形にした目的は、セントラルリサーチの体制を作りたいという会社の意図があったからです。「今後のプロダクトは、ジャッジメンタル・クオンツ・株・債券と括れるものばかりではなくなるだろう」と見据え、「まず、いろんなアスペクトで様々なリサーチリソースを活用できるようにしよう」と意図してこの体制になっています。

また、この体制をとっていることで、今、リサーチ運用部内でコラボレーションが起きていて、分析が高度化してきています。そのコラボレーションの触媒になっているのがオルタナデータとかAIとか新たなデータとか新たな分析手法であるという感じです。

オルタナティブデータ推進協議会(※1)でも、松本様は理事を務められています。オルタナティブデータに積極的な印象ですが、意識的に舵を切っているのでしょうか?

2017年・2018年頃から「データの活用もしくは新たな技術の活用に関して真剣に取り組まないと」と意識するようになりました。その頃、世の中のいろいろな活動がデジタル化されていく中、データ化される経済事象が非常に増えていったり、MiFID2や金融商品取引法の改正などで、機関投資家の情報優位性が低下していくという流れがありました。それらを並べた時「これからはデータの分析に力を入れないと」という結論に至り、それをさらにドライブさせたのが新型コロナウイルス感染症でした。当時は、準備体操してたらいきなり走れと言われた感じでしたね。コロナで経済の前提条件がすごく変化していくと言う予想がされていく中、「これ今やらないといつやるの」といった感じで御社とも契約させていただきました。

コロナ前からデータ活用に力を入れていたことで優位性などありましたか?

それは実感として大きいです。体制は既にできていたので、急速に変わる環境の中、社内で様々な新しいことにチャレンジしやすくなりました。我々としてもオルタナティブデータを使っていろいろなものの解像度が上がったり、様々な仮説を立てる起点が恐ろしく増えました。良いリサーチができて運用につながった実感もかなりあります。私は、「いい投資アイデアは良い仮説構築をどれだけ数作ることができるか」だと思っていて、そこから一定の確率で良いものが残っていくということだと思っています。なので、仮説の起点がオルタナティブデータを入れることですごく増えて満足しています。

様々な方が部内にいるということですが、特にオルタナティブデータの活用が積極的にできているのはどの辺りでしょうか?

ほぼ全員です。例えば、2020年に巣ごもり指数を開発してGPSデータやアプリ・ウェブのトラフィックデータ、「JCB消費NOW」のホテル・娯楽のデータなどを活用し、企業と個人それぞれの巣ごもり具合を測ったりしました。これは戦略の構築にも役立ちますし、そこから示唆される個別企業の分析にも役立ちます。

また、クオンツのプロダクトでオルタナティブデータを用いてファクターのエンハンスを行う際も役立ちます。例えば、バリューというファクターに投資するとき、バリュートラップに引っかからないために、ニュースを解析して注目度が著しく落ちているバリュー銘柄には手を出さない。また、ファンドの資金フローの情報を使いながらモメンタム銘柄に投資するときに、過度に機関投資家が群れていないモメンタム銘柄に投資するなどです。

日々のジャッジメントからクオンツ運用でも応用できるところは応用します。例えばアイデア出しの時、最初クオンツが「このデータを使うと、こうしたスクリーニングができる」と提出して、そのあと個別企業のアナリストが「そのスクリーニングだと、これを検知するのに使えるのでは」といった仮説が出てきて、それをまたクオンツが検証する。こうした“ファクターのブラッシュアップ”でもデータが活用できていて、組織全体でデータを活用できています。

組織全体でデータを活用されているのですね。「JCB消費NOW」は、他にどのように活用されていますか。

コロナの感染が拡大した初期は、「巣ごもり消費がどの程度盛り上がっていくのか」「反・巣ごもり消費がどの程度下がっていくのか」といったことのモニタリングに活用させてもらっていました。メッシュの細かさと速報性が「JCB消費NOW」の非常に良い特徴だと思っています。また、地域別や世代別もわかるので、外食であれば、「都心と郊外はこれから分かれていく可能性がある」といった時に非常に活用できます。

他では、昨年の夏の終わり頃に高齢者の方のワクチン摂取が8割以上済んだ時、「高齢者の人から消費し始めるのでは。その場合、何に消費し始めるのか」と思いました。「JCB消費NOW」のデータを見ると、高齢者の人が旅行し始めていることを確認することができたので、そのような形でメインに使わせてもらっています。

JCB消費NOWだけでなく、複数のオルタナティブデータを活用されていますが、複数のデータを使うことにより見えてくるインサイトが1+1=3になっている実感はありますか。

あります。完全にそういった点が複数データで分析を行う醍醐味です。「価格を上げることができている、できていない」を見るとき、例えばSNSデータでブランド力の変化に関する仮説を持って、その検証を「JCB消費NOW」のような消費データで行うといったことが考えられます。仮説構築と検証で使うデータは常に複合的な使い方になると思います。

今後の「JCB消費NOW」に期待することや要望がありましたら教えてください。

短期的に期待することは、我々がデータ分析で突き詰めようとしている“リオープニング関連”と“インフレ価格”分析に関することです。リオープニングに関しては、カテゴリーをリオープニングに応じる細かなメッシュで提供してもらえると嬉しいです。今でも細かく外食を見ることができ非常に有用ですが、他にも、カード消費でキャッチできそうなブライダルやフィットネス、学習塾、介護、インバウンド関連などの切り口のメッシュで情報をもらえると非常に役立ちます。

インフレ価格動向に関して、「JCB消費NOW」は消費の増減を価格要因・人数要因で分けて提供していただいていますが、今後そこから価格転嫁に関する動きを分析できたら良いと思っています。今後サービス業で労働力の供給制約が出てきた際、それが単価にどう影響するのか、値段が上がるものは何か、上がらなくて収益が圧迫されるものは何かという種別分けが行えるとありがたいです。

中長期で考えると、我々は企業の非財務情報をオルタナティブデータで補完していきたいと思っています。例えば、働きがい・企業文化などの評価データを使って企業の組織力や人材力を分析したり、特許情報を使って技術力を分析したりすることを目指しています。その中で、御社のような消費に関するデータを扱うベンダーに期待するのは「ブランド力」の分析です。例えば、企業別の価格帯の違いや、個人向けのサブスクリプションサービスの状況分析も良いと思います。

また、どこに支払っているかもわかるのであれば、個社ベース・産業ベースの寡占度、集中度、シェア変動に対する示唆が出ると興味深いです。我々は、「コロナの期間が当初の目論見よりも長引く→今後、融資や助成金が減ってくる→経営厳しくなる企業が増える→業界再編が起こる圧力が高まる」という仮説を持っています。こうした仮説に対して、個人の消費動向からどのようなことが見えるかといった、より具体的な仮説構築の材料が出てくると興味深い分析になると思います。時系列もあれば仮説に対する検証ができますね。

オルタナティブデータの活用方法は短期・中長期で様相は変わるが、それ自体の付加価値は今後も持続すると認識して良いですか。

そうですね。最初に言った通り、今後もデジタル化されていく経済事象は増えることはあれど減ることはないと思います。もしかしたら、GDPR(EU一般データ保護規則)によってデータ利活用の制約が強くなるということもあるかもしれませんが、基本的には将来予想をもとに投資活動をする我々の観点において、データ活用の重要性はますます高まっていくと思います。

(インタビュー日:2022年2月10日)

(※1)一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会

浦沢 聡士
公益財団法人 東京財団政策研究所 主任研究員(客員)
神奈川大学 経済学部 准教授
刻々と変化する経済の“今”を予測するには、
即時性がある高精度なデータが必須

社会のさまざまな問題について、調査、研究、政策提言を行う民間政策シンクタンクである東京財団政策研究所。同研究所の客員主任研究員である浦沢聡士准教授は、「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)に資する経済データの活用」に関する研究の一環として、「GDPナウキャスト」という取り組みを進めています。これは、国の経済活動を捉えるGDPの“今”の姿を公表に先駆けて予測しようとすることです。その予測に活用されているのが、「JCB消費NOW」。今、世の中には多種多様なデータが存在していますが、その中からなぜ「JCB消費NOW」を選んだのかを伺いました。

GDPという一国の経済活動を捉えたデータの“今”を、いち早く予測する「GDPナウキャスト」

―ご研究されている「GDPナウキャスト」とは、どのような取り組みでしょうか。まずは概要について教えてください。

GDP(国内総生産)は一国の経済活動を体系的に捉えるデータですが、「GDPナウキャスト」は“今”起こっている経済の変化を映し出すデータを利用して、GDPが公表される前に、GDPの“今”の姿をいち早く予測する取り組みです。東京財団政策研究所において、2021年12月からGDPナウキャストの定期公表を始め、現在、社会への実装を図っています。

―なぜ、GDPの公表に先立つ予測が必要なのでしょうか。「GDPナウキャスト」の取り組みを始められた経緯をご説明ください。

GDPは、経済の現状把握や経済政策といった経済運営を行う際に最も重要な指標となるものです。経済の動きを把握するには、GDPの他にも、例えば景気動向指数といったデータを用いることもできますが、一国経済全体の動向となると、あらゆる経済活動を体系的に捉えたGDPが有用です。

また、GDPは国際的な基準に則って作成されており、国際比較にも適しています。こうした理由から、政策担当者やエコノミスト、研究者、さらには経済を学ぶ学生の方など、経済動向に興味関心を抱く幅広い層に利用されています。GDPが発表されると報道などでも大きく取り上げられますが、こうしたニーズの高さによるものです。

しかしその一方で、GDPは四半期データであるため、四半期に一度しか知ることができません。また、多くのデータを集約する必要から、統計の対象となる月が終了してから統計の公表までに、1カ月半程度のラグが生じてしまいます。例えば、7〜9月期のGDPの公表(1次速報)は11月になってしまいます。

適切な経済運営を行うためには、その前提として、経済の現状を正しく知る必要があります。しかしGDPの発表を待っていては、リアルタイムで経済の“今”の姿を知ることができません。私自身、内閣府等で経済運営に携わっていたため、どうにかできないだろうかという問題意識を持っていました。

そうした中、2000年代半ばから欧米を中心に、四半期データであるGDPより公表頻度が高い月次データなど、さまざまなデータを利用して、GDPの早期推定値を得るという「GDPナウキャスト」の手法が開発され、経済の“今”を知る取り組みが進められてきました。私自身も、こうした欧米での取り組みを参考に、2012年以降、日本の「GDPナウキャスト」に取り組んでいます。

―リアルタイムでの経済の現状を把握するために始まったのが「GDPナウキャスト」なのですね。具体的には、どのようにしてGDPの公表に先立った予測を行っているのですか。

「GDPナウキャスト」では、予測モデルを構築し、必要なデータを入力することで、機械的に予測対象四半期のGDPの予測値を計算しています。日々公表される最新のデータを取得する度にデータを入力して予測を繰り返すことで、リアルタイムでGDPの“今”の姿を捉えるとともに、GDPに基づく経済の“今”に関する評価を、常に最新のものへアップデートしていくことを目指しています。

事後的に公表される公的統計と整合的である点を、最も高く評価

―「GDPナウキャスト」実施において、「JCB消費NOW」のデータを取り入れた理由を教えてください。

経済分析の分野では、公的統計といった伝統的なデータに限らず、いわゆるオルタナティブデータと呼ばれる位置情報や検索情報、POS売り上げデータ、クレジットカード利用情報などの活用が進んでいます。「GDPナウキャスト」の実施においては、今起こっている経済の変化をいち早く捉えることが何にも増して重要となりますが、こうした課題に応えるため、高頻度で、即時性に優れ、より詳細な情報を有するオルタナティブデータを積極的に活用していきたいと考えています。

「GDPナウキャスト」では、目的とするものがGDPの予測であるため、一国の経済活動を捉えているデータが必要です。クレジットカードの利用に基づく消費動向が分かる「JCB消費NOW」は、そうした一国の経済活動の一面をかなり高精度でタイムリーに捉えることができるデータであることから、各種オルタナティブデータの中から、まず初めに導入を決めました。

―「JCB消費NOW」が経済活動の一面を高精度でタイムリーに捉えることができるという点について、もう少し詳しく教えてください。

コロナ禍以降に見られる経済の特徴的な変化の一つとも考えられますが、緊急事態宣言の発令、解除が繰り返されるなどの影響を受ける中、これまでの傾向と異なり、サービス分野における消費活動が大きく変動するようになりました。経済に占めるサービス消費の重要性は、感染症拡大の影響を受ける前から高まっていましたが、コロナ禍においてその影響をより強く受けることで、GDPの動向にも大きなインパクトを与えるようになりました。そこで、こうしたサービス消費の動きをタイムリーに捕捉するために「JCB消費NOW」を用いています。サービス消費については、公的統計における捕捉の遅れが指摘されていますが、「JCB消費NOW」を用いることで、今起きている変化をいち早く捉え、「GDPナウキャスト」の予測精度の向上を図っています。

―「JCB消費NOW」を利用する上で、最も評価されているのはどのような点ですか。

個人的に「JCB消費NOW」をはじめとするオルタナティブデータを利用する際に最も重視しているのは、オルタナティブデータにより捕捉される経済社会の動きが、事後的に公表される公的統計によって確認される動きと整合的であるかどうかです。例えば、現在、政府においても景気判断を行う際にフォローするデータとして、オルタナティブデータの活用が進んでいます。今後、こうしたデータの動きを単に観察するにとどまらず、より積極的に意思決定に活用していこうとした場合、オルタナティブデータを用いてタイムリーに捉えた経済の動きと、事後的に公的統計(とりわけ日本の場合はGDP統計)で確認される動きが常に整合的でなければ、自信を持って意思決定の根拠として使うことは難しいでしょう。

こうした問題意識から、「JCB消費NOW」の動きを分析したところ、「JCB消費NOW」はコロナ禍での動きを含め、GDP統計をはじめとした公的統計が示すサービス消費の動きとおおむね整合的であることが確認できました。オルタナティブデータは、その利用に際し、それぞれのデータサンプルが偏っていないか、全体の結果を正確に反映できているか、といった点に留意が求められるもの。「JCB消費NOW」は、特にサービス消費について、一国経済全体の動き(傾向)を高精度で捉えることができており、その点を最も評価し、「GDPナウキャスト」への利用を進めています。

「JCB消費NOW」は、 GDP統計の公表を待つことなく、2 週間に1回の頻度で、GDP 統計とも整合的なサービス消費の動き、特に、その大きな変化に関する兆候をよりタイムリーに捕捉することを可能とします。それによって、GDP統計を中心に据えて行われる景気判断、ひいては経済運営の迅速化に資することも期待できるのではと考えています。

新たなデータを活用し、経済の“見える化”を、地域レベルへ

―「JCB消費NOW」を活用していくにあたり、要望などがあれば教えてください。

ベンチマークとなる統計との整合性を、評価・分析できる仕組みを構築できると良いと考えています。

例えば、GDP統計をはじめとするマクロ経済の消費動向を示すデータと、「JCB消費NOW」のデータとの差異があった場合、それがどのようにして生まれたのか分析し、ユーザーに解説していただけるような仕組みです。それによって、ベンチマークとなる統計との整合性がより担保されると、「JCB消費NOW」の持つ性別、年齢別、地域別、業種別といった詳細な属性別のデータの信頼性もより高まるのではないかと思っています。

GDP統計など従来の公的統計では捉えきれない詳細な情報(ミクロの視点)が重要になればなるほど、全体の整合性(マクロの視点)が担保されることで、そうした情報の価値がより一層高まるのではないでしょうか。ミクロの視点から見た個別・詳細なデータを集計してマクロの視点から見た場合に、もしその動きが公的統計で示される全体の動向と異なっていたら、個別・詳細に見たデータは現状をリアルに捉えられているのかどうか不安になるかもしれません。

近年、社会のあらゆる場面で、データ利用のニーズが高まっています。さらに、「より早く」「より頻繁に」「より詳しく」といったニーズの高度化も進んでいます。「JCB消費NOW」をはじめとするオルタナティブデータは、こうした社会のニーズに応え得るものと考えていますが、即時性や詳細な情報を持つといったデータの特徴を最大限に活かすためにも、ベンチマークとなる統計との整合性が担保されることで、ユーザーとしては安心して利用することができるのではないでしょうか。

―幅広いユーザーの安心を担保する仕組みということですね。

もちろん、あらかじめそうしたデータの確認作業は入念に行われていると思いますが、そうした仕組みをより整備いただき、そこで得られた知見をユーザーと共有していただくことが理想です。メーカー、ユーザー双方でベンチマークとなる統計との整合性を評価するという文化を醸成できると、「JCB消費NOW」をはじめとするオルタナティブデータ活用の裾野も広がるのではないかと考えています。私自身も、オルタナティブデータと、そのベンチマークとなる公的統計との整合性を評価・分析することで、官民データ時代における両者の橋渡しに取り組んでいきたいと考えています。

―今後の研究に、「JCB消費NOW」をどのように活用していきたいと考えていらっしゃいますか。

今後は、“今”を予測するナウキャストという取り組みを、国レベルだけでなく地域レベルへも広げていくことを目指しています。

昨今、これまでになかったさまざまなデータが生み出され、利用することができるようになってきました。例えば、「JCB消費NOW」では、都道府県単位でのデータや、百貨店やホテルなど一部業種で消費者と店舗の両方の地域を用いた消費指数のデータ(「From To 指数」)なども知ることができます。こうした、地域性に着目したデータを活用することで、国レベルにとどまらず、地域レベルでも経済活動の変化をリアルタイムで把握する道が開けてきたのです。新たに利用できるようになったこうしたデータを用いて、経済社会の動きを地域レベルで“見える化”することにより、社会に役立てていきたいと考えています。

(インタビュー日:2022年7月26日)

萩原光江
IBMコンサルティング事業本部 流通事業部
マネージングシニアコンサルタント
日本アイ・ビー・エム株式会社
深津晋一郎
金融第一事業部 第二営業部
インダストリー・テクノロジー・セールスリーダー
日本アイ・ビー・エム株式会社
業種を網羅した高頻度な消費データには、
高精度でビジネスの未来を予測するポテンシャルがある

日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)が提供するSaaS型の需要予測ソリューション「Advanced Demand Forecast」は、先の見通しが難しい現在、ビジネスに必要な予測に対する意思決定を支援する同社のソリューションです。その分析対象データとして「JCB消費NOW」をご活用いただきました。同ソリューションのプロダクトオーナーである萩原様とJCB様を担当されている深津様に、今回の取り組みについてお話をうかがいました。

SaaS型の需要予測ソリューション「Advanced Demand Forecast」

―まず、萩原様と深津様がご担当されている事業やサービスについて教えていただけますでしょうか。また、今回の取り組みの経緯についても教えてください。

萩原様:
IBMは、ハイブリッドクラウドとAIを活用したソリューションとクラウドプラットフォームに注力し、研究・開発やハードウェア、ソフトウェア、コンサルティングから、システム開発、保守運用にいたるまでのサービスやテクノロジーを展開しています。 私が所属しておりますIBM コンサルティング事業本部は、Industry SaaSに力を入れておりまして、「ADF(Advanced Demand Forecast、以下「ADF」)」は、流通業のお客様の業務の中核を司る需要予測の領域で、システム構築費用を必要としないクラウド提供されるSaaS型のソリューションとなります。ADFは、分析対象データを投入すると、機械学習の自動化機能を持つAuto AIが最適な予測モデルを自動判定し、予測結果を表示することができます。

前述の通りADFは、流通業のお客様向けに来客数や商品の販売数を予測するプラットフォームとして開発されましたが、 要はファクトベースのデータを予測エンジンに取り込んで需要予測を行うソリューションなので、例えば、将来の経済状況やマーケットの動向を予測して経営判断に役立てたいといったニーズなどに、業種を問わずご活用いただくことができます。

深津様:
私は金融第一事業部に所属し、営業部にてJCB様を担当させていただいております。今回の取り組みは、JCB様との間でクレジットカード決済データを用いた新たなインサイトの創出に関する議論を重ねていた中で生まれたアイデアが契機となっています。

萩原様:
JCB様としては、得られたインサイトを加盟店様へ還元されたいというご期待もございました。私はIBMコンサルティング事業本部の中でも流通業のお客様を支援しているチームにおりますが、JCB様の加盟店様には流通業のお客様が多くいらっしゃいます。そこで、日頃からJCB様をご支援させていただいている金融チームに我々流通チームも加わり、JCB様を交えてディスカッションをさせていただきました。そこで様々なユースケースを検討した結果、クレジットカード決済データをもとにした経済指標である「JCB消費NOW」にADFの予測エンジンを加えることで経済動向の未来予測ができるのではと考え、実証実験を行ったというのが今回の取り組みになります。

「百貨店」の消費動向において、誤差率約3%という予測精度を実現

―具体的にどのように「JCB消費NOW」をご活用いただいたのでしょうか。また、実証実験の結果はいかがでしたか。

萩原様:
今回の実証実験では、JCB消費NOWの全66業種ある指数のうち、総合指数および百貨店やショッピングセンターなどの一部業種で実績予測を行いました。

結果として、かなり高い精度で予測をすることができました。正直、百貨店やショッピングセンター については、コロナ感染状況や緊急事態宣言の影響を受けたりするので予測が難しいだろうと思っていたのですが、実際には誤差率がわずか約3%という結果でした。

深津様:
これまでもデータ分析に関する提案の経験は何度かありますが、 誤差率が約3%というのを見た時は「そこまでわかるんだな」と思いましたね。ADFの画面上で6ヶ月間の予測と実績が折れ線グラフで表示されたのですが、その2つの波形が非常に近い軌跡を描いていて。 こんなふうにビジュアルで直感的に理解できる点も、非常に使いやすそうだと感じました。

ADFの予測エンジンは、様々なバリエーションのデータを取り込むことができます。異なるデータを掛け合わせることで予測精度を上げたり、抽出できる価値をより高度なものにすることも可能なので、今後、JCB消費NOWにも人流データや気象データ、イベント情報データといった多様なデータを掛け合わせてみたいと思っています。

対応している業種の幅広さと、都道府県別分析が可能な点を評価

―ADFを用いた未来予測にご活用いただくにあたり、「JCB消費NOW」のどのような点を評価いただいていますか。

萩原様:
「JCB消費NOW」の業種と地域が網羅的である点を高く評価しています。業種は総合指数を含めて全66種に細かく分かれていてEC決済も捕捉していますし、地域という点では都道府県ごとの指標が提供されており、比較検討しやすいデータがサポートされていると思います。これにより、例えば特定の都道府県で展開されているスーパーマーケット様が、自地域のスーパーの売上は下がっているけれどスーパーマーケット全体では上がっていることに気づけたり、同じ商品を扱っているドラッグストアなどの異業種やECに売上が流れていることをデータでベンチマークできたりすることによって、より効果的な打ち手を検討できると考えています。

データ提供の高頻度化と地域の細分化に期待

―今後の「JCB消費NOW」に期待することをお聞かせください。

深津様:
私たちとしては、今回のような予測が具体的にどのようなお客様の課題解決につながるのかを、ナウキャスト様やJCB様と一緒に探していきたいと思っています。そのためにも、データ提供の高頻度化と地域のさらなる細分化に期待しています。

例えば、不動産業のお客様からは、大都市圏では同じ区域でも1丁目と2丁目とで住んでいる方や世帯の傾向が異なったりするという話を聞きます。地域をもっとミクロに分析できれば、特定の商圏の動向をより正確に捕捉できるのではないでしょうか。データ提供頻度についても、現在の約2週間単位でのデータ提供が日単位や時間単位になったら、生鮮品を扱うような業界や、必要な人員数が日々刻々と変動するような業界に対しても需要予測を提供することが可能になってきます。

ただ、我々もITの会社ですので、それが決して簡単ではないことも理解しています。データの母数に影響が出るレベルで絞り込んでしまうと偏りが出やすくなりますし、商圏が狭すぎると実質的に店舗が特定されてしまいます。データの事前準備や開発、どのようにメンテナンスしていくかといった運用面がハードルになることも多々ある中で、実現可能なポイントを探っていくのだと思います。

今回JCB消費NOWのデータに触れてみて、そのカバレッジの広さや網羅性をもって大きなトレンドを正確に捉えていける点は本当にすばらしいと思いました。その価値を、様々な業界の課題解決にうまくつなげていきたいですね。

ユーザー企業に寄り添いながら、共に課題解決を目指したい

―ADFの今後の展望を教えてください。

萩原様:
ADFが目指す方向性としては2つあります。

1つは、現場のオペレーションレベルで次のアクションに活用いただくために、提供する予測データをより詳細化することと、データの組み合わせによりさらなる精度向上をしたいと考えています。先ほど申し上げた、「JCB消費NOW」への期待やほかのデータとの掛け合わせは、こちらに相当します。

もう1つは、経営の意思決定にお役立ていただくためのシミュレーションの高度化です。ADFの予測エンジンは、分析対象データの中から予測の手掛かりとなる変数(特徴量)を選択したり、足りない場合にはデータを組み合わせて特徴量を自動生成したりする機能を有しています。ユーザー企業様が、この予測エンジンに世界情勢や気候変動、資源高騰といった経済へのインパクトの大きいデータを加えたり、変化させたりすることで、世の中の動向をシミュレーションできるのではと考えています。

また、現在ADFが扱うデータは、お客様の実績数値に加え、コーザル情報である気象やコロナ関連の数値が中心となっていますが、今後はユーザー企業様が必要とされる業界別の経済指標であるJCB消費NOWのデータや、画像、IoT、ソーシャルなどのデータも加えられるようデータ利活用の共創も進めていきたいと考えています。

深津様:
クレジットカード業界のデータ利活用において鍵となるのは、カード決済データが課題解決につながるユーザー企業をいかにして巻き込むか、だと思います。なので、次のフェーズでは百貨店や飲食店といったユーザー企業様にも参加いただき、そのユースケースに寄り添うことを大事にしたいです。様々な企業がADFにデータを持ち寄ることで価値が生まれ、ユーザー企業のペインを解消していく。それを可能にする立場を、IBMが担っていきたいですね。

(インタビュー日:2022年7月11日)

田中健太郎
マーケティンググループ VP of Marketing
株式会社ネットプロテクションズ
事業のパフォーマンスを客観視できるデータによって
意思決定のスピードと精度が向上

ネットプロテクションズは、国内BtoC取引向けBNPL(Buy Now Pay Later:後払い決済)サービスの市場にてトップシェアを誇るリーディングカンパニー。2002年に、日本初となる未回収リスク保証型の後払い決済サービス「NP後払い」の提供を開始して以来、同サービスで順調にユーザー数や取引件数を伸ばすとともに、BtoC向けサービスや、海外での事業の開始など、事業の幅を広げています。

同社の国内BtoC向け事業のマーケティング戦略に、「JCB消費NOW」が活用されている背景について、マーケティンググループ VP of Marketingの田中様にお話を伺いました。

日本初となる「未回収リスク保証型」の後払い決済サービスを開始し、BNPLサービス市場の開拓を続ける

―御社の事業やサービスについてご紹介ください。
当社は2002年に提供を開始した、日本初の「未回収リスク保証型」後払い決済サービス、「NP後払い」を主軸に、さまざまな国内BtoC取り引き向けBNPLサービスの市場を開拓しています。「NP後払い」は、提供開始以来、2022年3月までに年間ユニークユーザー数が1,500万人を超え、累計取引件数が3.4億件を突破するまでになりました。

国内BtoC取引向けとしては、2015年に、住宅設備の修理リフォームや家事代行、またフードデリバリーなどのサービスを提供している企業に向けた後払い決済「NP後払いair」を。そして2017年には、デジタルコンテンツ・実店舗などさまざまな業種で導入可能な後払い決済「atone(アトネ)」の提供も開始しました。

また、2011年には、同サービスで培った独自の与信ノウハウとオペレーションをBtoB取引向けに展開した「NP掛け払い」を本格販売しました。同サービスは、2021年度の年間流通金額では前年比約30%で伸長しています。さらに2018年には、台湾においてもスマホ後払い決済サービス「AFTEE(アフティー)」をリリースしました。

当社ではこれらの事業運営の豊富な実績に基づく与信とオペレーションを構築しており、決済サービスを通じ誰もが安心・スムーズに商取引できる社会の実現を目指しています。

―「NP後払い」というサービスについて教えてください。
「NP後払い」は、当社が提供する後払い決済サービスです。ECなどの通信販売において利用でき、購入者様には、商品到着後に紙の請求書やメールにて電子バーコードを送付、コンビニ・銀行・郵便局・LINE Payのいずれかでお支払いいただく流れになっています。

大きな特長としては、購入者様の支払い状況に関わらず、弊社が購入代金を通販事業者様に立て替え払いしていること。つまり通信事業者様にとっては、「未払い」という状況が発生しません。また、後払いを運営する際に発生する請求書発行・督促業務等はすべて弊社が代行するため、通販事業者様の運用コストを削減することもできます。

―「JCB消費NOW」のデータは、御社のどの事業・サービスにおいて活用されていますか?
現状では、「NP後払い」「NP後払いair」「atone」といった、国内BtoC取引向けサービスで活用させていただいています。

「JCB消費NOW」の導入で、マーケット戦略会議の精度とスピードが向上

―「JCB消費NOW」の導入を決められたいきさつを教えてください。
マーケティンググループとしては、事業のパフォーマンスを客観視するために、外部環境を定量的に把握したいという要望がありました。そこに、当社と資本関係にあるJCB様から「JCB消費NOW」をご紹介いただく機会があり、国が公開しているデータなどと比較して、私たちが求めている粒度の細かさや即時性を備えたデータではないかと思い、トライアルを行った上で導入を決めました。

―「JCB消費NOW」のデータはどのように活用されていますか?
導入理由として挙げたように、事業のパフォーマンスを客観視するため、ターゲットセクターにおける購買動向をタイムリー・定量的に分析して、社内会議等で活用しています。例えば、社内の戦略会議で、「この業種のこのECセクターで、このトレンドは昨年比何%で伸びています」などと説明する際に、具体的なデータを提示できれば説得力がありますし、話も早い。「JCB消費NOW」を導入することで、従来よりも議論の精度とスピードが上がったように思います。

―公開されているIR資料等でも、「JCB消費NOW」のデータを活用されていますね。
そうですね。一部データを引用させていただき、当社事業を取り巻く外部環境トレンドとして示しています。また、投資家の方々に対して、外部環境と当社のパフォーマンスをセットで説明する際のデータとして引用していますね。

―「JCB消費NOW」を利用する上で、最も評価されているのはどのような点ですか。
1つ目は、EC・リアル、および業種セクターごとに消費動向を分析できる、粒度の細かさです。ECのデータとリアル店舗でのデータが分かれており、また、業種セクターごとにも詳細に分割されているので、より細かなセクターの動向が把握できます。当社のサービスは、ECからリアル店舗まで幅広い事業者の方を対象にしているため、今どのセクターが熱いのか、どの分野が伸びているのか、といったことを把握するのに役立っています。

2つ目は、隔週配信というスパンによって、最速2週間後に前月のデータを入手できるという、即時性です。総務省の統計データは発表の頻度が四半期に1度で、かつ公表時期にもタイムラグがあります。また、シンクタンクなどが発行する調査レポートも、昨年度までの実績が公開されるのは数カ月後。もちろん、どちらも有用な情報ではありますが、日常的な戦略会議などで用いるには、なるべくリアルタイムで、タイムリーなデータが必要であることも事実です。2週間前〜1カ月前までのデータで、かつ直前までのトレンドも出ているとなれば、今後の予測もしやすくなります。日々の戦略的な議論や意思決定において、即時性は欠かせない要素と言えるでしょう。

3つ目は、信頼性の高さです。「JCB消費NOW」はデータの母数が非常に大きく、信頼性が担保されていると思います。実際に、最近ではさまざまな大手機関でも利用されるなど、信頼できるデータとして社会的な認知度も高まっていると伺っています。最初に「JCB消費NOW」を使って分析したデータを提供した際には、政府統計と比較しての質問などを受けることがありましたが、今ではすんなりと受け入れられるようになっています。IR資料のように社外に出す資料に引用できるのも、高い信頼性があってこそ、ですね。

―マーケターとして、「JCB消費NOW」導入のメリットを挙げるとすれば、どういった点がありますか?

あらためて基本的な話に立ち返ると、「マーケットを理解する」ことこそが、マーケティング戦略の大前提だと思います。そして、マーケットの理解を進めるためには「質的な理解」と「量的な理解」の両方が必要とも思っています。

「質的な理解」は、いわゆる数値では表しにくい情報の分析です。購買決定要因など購入者のインサイトをデプスインタビュー(対象者とインタビュアーによる1対1の面談式で実施する調査方法)などから探っています。一方、「量的な理解」は数値のデータの分析を指します。価値を届けるべきセグメントはどこなのか、外部環境の統計データや調査データで探っています。

この2つの「理解」があって初めて、健全な戦略の意思決定ができます。「JCB消費NOW」は「量的な理解の面」において、粒度の細かさと高い即時性で、非常に価値の高いデータだと思います。

消費者の動向を直接知ることができるため、BtoC、もしくはBtoBtoC業界であれば、多くの事業で役立つデータだと思います。日常レベルで参照していけば、マーケティングの精度を高めることもできるでしょう。

ユーザーに寄り添い、積極的に改良を進めるサービスである点も高評価。共に成長していく未来を期待

―「JCB消費NOW」を活用していくにあたり、要望などがあれば教えてください。
現状、データとしての高いポテンシャルを生かし切るには、ある程度、利用者自身がデータの扱いに習熟しておく必要があるサービスだと感じています。

私自身は、データサイエンティストのようなスペシャリストではありませんが、マーケターとして、データクレンジング(データの品質を向上するために、各種データ整理・標準化すること)などの、データを扱うための基本的なスキルは持ち合わせているつもりです。「JCB消費NOW」の導入にあたってのトライアルの際には、チュートリアルを隅々まで読み込み、不明な点があればサポートに問い合わせるなどして、1つひとつ解決をしました。

結果として、現状では「JCB消費NOW」を活用したデータ分析は私自身で行っていますが、今後は、マーケティンググループ内全体でスキルを高め、チームとしてデータ分析に取り組んでいけるようにしたいとも思っています。これにあたり、例えばWeb上で感覚的に操作できるなど、データを利用する上でのハードルを下げていただくことができれば、よりスムーズに移行できますし、さらにはマーケティンググループ以外でも、さまざまな会議の場で積極的にデータを活用する企業文化が醸成できるようになるのではないか、と期待しています。

―データを利用する上でのユーザビリティが高まれば、社内でより多くの部署でデータ活用が進み、組織のデータリテラシー向上が期待できるということですね。

そうですね。特にマーケティンググループにおいては、外部環境の分析力を「JCB消費NOW」が支えてくれるのではと期待しています。
疑問点を挙げるときめ細やかにレスポンスがもらえるなど、サポートの手厚さには感謝しています。ユーザーの意見を汲み上げるミーティングの実施など、「JCB消費NOW」はユーザーに寄り添い、改善を進めていくサービスであると認識しています。今後、共に成長をしていければ幸いです。

(インタビュー日:2022年9月22日)

宮本 祐一
Public Relationsチーム マネージャー
株式会社メルペイ / 株式会社メルコイン
PRにおける外部データ活用の重要性が増す中、リアルタイムな経済指標が欠かせない存在に

フリマアプリ「メルカリ」のスマホ決済サービス「メルペイ」を提供するメルペイ様。プレスリリースで「JCB消費NOW」のデータを度々ご活用いただいています。PRマネージャーの宮本様に、広報活動において「JCB消費NOW」をどのようにご活用いただいているのか、また、PRにおける外部データ活用の意義についてお話をうかがいました。

広報として、リアルタイム性のある経済指標を求めていた

―まず、宮本様が担当されている業務と、どのようなきっかけで「JCB消費NOW」をお知りになったのかを、教えていただけますか。

「メルペイ」は、個人間で物の売り買いができるフリマアプリ「メルカリ」のスマホ決済サービス「メルペイ」を提供する会社です。私はそのPRマネージャーを務めており、「メルペイ」や「メルコイン」といった自社サービスをメディア向けに広報しています。

プレスリリースなどの手段を用いてサービスを広報する際には、自社の発表に加えて、なぜ今その発表をするのかという社会背景を説明することが多いです。しかし、特に決済で用いることの多い、消費の傾向や動向など、多くの場合は、確固たる数値としては政府統計など速報性に劣るものしか入手できていませんでした。そのため、さまざまな事業会社さんとの会話を通して肌感覚としての景気動向をなんとなく捉え、それを材料に広報することもありました。

このような背景から、広報として金融・経済を語る上で、情報のリアルタイム性を何よりも大事にしたいという思いと、実際に手に入るデータの遅延性との矛盾が大きく、長らくそこに問題意識を持っていました。また、加盟店など私たちのお客様からも「マクロでわかりやすいデータを入手したい」という要望をいただいていました。そんな時に、日本経済新聞の記事で「JCB消費NOW」のデータが引用されているのを見てサービスのことを知り、使い始めました。

さまざまな業種の消費動向が、加盟店とのコミュニケーションにも役立つ

―具体的に「JCB消費NOW」をどのように活用されていらっしゃいますか。

大きく2つあります。1つ目は、日本全体の消費動向の把握です。私たちは、「メルペイ」を利用されている方の傾向は把握できますが、その他の決済手段を含めた消費傾向は分かりません。マクロで見て、消費が増加しているのか、それとも落ち込んでいるのか、またどんなカテゴリーで増加・減少しているのかを把握するために「JCB消費NOW」を参照しています。

2つ目は、私たちのコラボレーション先の検討です。一緒に消費を盛り上げていきたい企業を検討する上で、相手先の業界がどのような状況にあるのかを正確に把握するのに使っています。例えば、このコロナ禍で大きく打撃を受けた旅行業界の状況を知るために「JCB消費NOW」のデータを使い、コロナによって旅行消費はどう変わったのか、現在は回復と下落どちらの傾向にあるのかなどを社内向けのプレゼンで共有させていただいています。

―「JCB消費NOW」を活用する前と後とでは、どのような変化がありましたか。

「JCB消費NOW」を活用する前は、月毎や四半期ごとに発表される政府統計を利用していました。政府統計を利用する上で悩んでいた点が大きく2つあります。1つは速報性の低さです。広報でプレスリリース等の社会背景に利用する際には、できるだけ今をとらえた数字を活用したいという方が多いと思うのですが、我々も同様で、少し前のデータになってしまうことで、文脈が十分に表現できないことに悩んでいました。
もう一つは、データがマクロなデータになるので、ときにはプレスリリースで表現したい文脈に必ずしもフィットしないということでした。具体的に言うと、プレスリリースでは特定の業界・業種について深掘りをしたいという時に、政府統計では日本全体の消費傾向になるなど、対象範囲の広さが合わないということがありました。

「JCB消費NOW」は業種が豊富で、時系列と照らし合わせながら国内消費動向を数値で確認できる点がとても重宝しています。さまざまな加盟店の方とお話をさせていただく中でも、このデータがあるかないかで相手側の納得度はかなり変わってきますし、こちらもより自信を持っていろいろな提案を行っていけるようになったと思います。

地域をまたいだ消費がわかる「FromTo分析」で分析の幅が広がることに期待

―「JCB消費NOW」の機能で、特に活用したいと考えているものはありますか。

どこから来た人がどこで消費したのかがわかる「From To分析」にも関心があります。

現在、地方活性化は政府の中でも中心的なアジェンダになっていると思いますが、地域間の人の移動は特に注目ポイントだと考えています。以前、金沢の観光協会の方々と一緒に金沢への来訪者分析を行おうとしたのですが、「インバウンドが減っているという漠然とした情報はあるが、それを示す定量的なデータはない」とか「国内旅行客に関するデータは新幹線の乗客数しかない」という状態で、分析データを集めることの難しさを感じました。

「JCB消費NOW」の「From To分析」を使えば、例えば沖縄のホテル宿泊者がどの地域から来ているのか把握したり、コロナ禍下でも人の移動が活発化している地域とそうでない地域を浮き彫りにしたりできるので、分析の幅が広がると思います。

―今後の「JCB消費NOW」に期待することがあれば教えてください。

今でも地域ごとの消費の特徴が見えているとは思いますが、その業種の中でも特に売れている商品カテゴリーや金額規模なども踏まえた決済の中身を、加盟店規模などでグラデーションしてわかるようになると面白いと思います。商品レベルでの分析ができるようになると、例えばコロナ禍でマスク騒動がありましたが、あの時、二次流通での販売が一次流通の逼迫や値段の高騰を生んでいたか、あるいはまったく影響を与えていないのかなども分析可能になります。

最後に、広報において、第三者による外部データやファクトを活用することの重要性はどんどん増してきていると感じています。自社データだけでは客観性の担保が難しく、裏付けが弱くてはメッセージも弱くなりますし、メディアの方も記事にしづらいと思います。メッセージの妥当性を確認する上でも、外部データの活用は大事だと思うので、今後も「JCB消費NOW」を積極的に使っていければと思っています。

(インタビュー日:2021年12月27日)

亀田 制作
プリンシパル兼エグゼクティブ・エコノミスト
SOMPOインスティチュート・プラス株式会社
水ノ上 博一
企画・公共政策グループ 副主任研究員
SOMPOインスティチュート・プラス株式会社
物価上昇局面でも足もとの消費動向を正確にとらえられる
「JCB消費NOW」は、マクロ経済分析に欠かせない存在

SOMPOグループのシンクタンクであるSOMPOインスティチュート・プラス。保険業界となじみの深い分野から調査・研究をスタートし、現在では政治・経済等に関わる調査研究や政策提言に加え、少子高齢化、社会保障、気候変動といった社会課題、働き方・雇用・ダイバーシティ&インクルージョンといった社会変化、デジタル技術等を活用したまちづくりやモビリティ、将来社会像などの未来予測といった多様な研究テーマに取り組んでいます。

2022年春に同社のプリンシパル兼エグゼクティブ・エコノミストに就任され、マクロ経済チームを立ち上げている最中の亀田様と、副主任研究員の水ノ上様に、お話をうかがいました。

日銀時代から一貫して、オルタナティブデータを使ったマクロ経済分析の可能性を追究

―2022年春に、日本銀行からSOMPOインスティチュート・プラスにご転職されました。まずは亀田様のご経歴と、SOMPOインスティチュート・プラスでのご活動について、簡単に教えていただけますでしょうか。

亀田様:
私自身は日本銀行に31年間勤めまして、今年春に退職するまでの約2年間は調査統計局長といういわゆる日銀のチーフエコノミストのポジションに就き、金融政策会合などに向けた、日本経済に関する様々なリサーチを統括しておりました。また、それとは別に、オルタナティブデータのフォーラムを開催したり、日銀のホームページに専用コーナーを作ったり、日銀の「展望レポート」にオルタナティブデータを用いた分析を掲載したりなど、オルタナティブデータを活用したマクロ経済分析にも力を入れてきました。

SOMPOインスティチュート・プラスはまだ小規模なシンクタンクではありますが、SOMPOグループの各事業をベースにしつつ、マクロ経済調査、社会保障、気候変動、モビリティ、地方創生、あるいはヘルスケアなどの幅広い社会的イシューについてのリサーチを増やしつつあるところです。そうした様々な分野において今後、オルタナティブデータ活用が求められると考えていまして、例えば業界団体であるオルタナティブデータ推進協議会のファクトブック制作の受託など、活用を広げるための活動も行っています。日銀時代にやっていたようなオルタナティブデータを使ったマクロ分析をより深め、今度は民間シンクタンクの立場から世の中に広めていくことに大変興味を持っております。

コロナ禍をきっかけに、「JCB消費NOW」は足もとの消費動向分析に欠かせない存在に

―亀田様には日銀時代から「JCB消費NOW」をご活用いただいていました。活用を始めたきっかけや用途について教えてください。

亀田様:
日銀で「JCB消費NOW」の活用を始める契機となったのは、やはり新型コロナウイルスの流行でした。実は、日銀自体はそれ以前からオルタナティブデータ活用に着手していまして、実体経済面の分析では2013年頃から、例えば「Googleトレンドの検索データをもとに旅行需要をナウキャストする」といった試みをしていました。そういうリサーチの蓄積があったところにコロナ禍がやってきて、高頻度データを中心としたオルタナティブデータの活用が加速していったのです。

日銀での「JCB消費NOW」の活用目的は、景気分析において、新型コロナの感染状況に応じて目まぐるしく変化する個人消費動向、特にサービス消費をタイムリーにとらえることです。まずは調査統計局内で、消費分析の担当者が半月ごとに財・サービス別の最新動向や、年齢別の消費スタンスの違いなどを、課長や局長の私まで直接報告します。それをもとに局内で議論し得られた結論や知見を、年8回開催される金融政策決定会合にて、私から黒田総裁以下9名の政策委員に対して、マクロ景気情勢判断の一環として報告していました。

消費動向については、「JCB消費NOW」に加えて、日次・週次の人出データや消費関連の各種サーベイ結果、小売・サービス企業への独自のヒアリング情報などを組み合わせて足もとの動向を判断し、さらに後から公表される産業別統計やマクロ消費統計で事後的に確認する、といった段取りで分析を進めていました。官庁統計、ミクロの企業情報に民間のオルタナティブデータが加わったことにより、景気判断にさらに厚みが生まれたと思います。

また、日銀が年4回、景気・物価見通しとその背景分析等を対外公表している「展望レポート」に「JCB消費NOW」の図表を掲載し始め、当初は特別掲載でしたが、その後、定例主要図表の一つとして採用しました。

さらに、「JCB消費NOW」を、足もとの個別の財・サービス消費動向だけでなく、マクロ消費全体の動向や特徴をつかむために利用する試みも進めました。具体的には、日銀が作成している「消費活動指数」を対象に、「JCB消費NOW」を含むオルタナティブデータやPOSデータを組み合わせて、その動向をいち早くつかむという試みです。消費活動指数はGDP確報の個人消費をナウキャストするための指標ですが、その指標自体を今度はオルタナティブデータでナウキャストするわけです。

当初、オルタナティブデータは速報性に優位点はあってもサンプルに偏りがあるので、マクロ全体の消費動向を当てに行くのは難しいと推測していましたが、様々なデータの「いいところ取り」を行い、統計的な処理を施せば、予想以上に精度の高いマクロ消費の速報指標が作れることがわかりました。これを「オルタナティブデータ消費指数(ALC)」と名付け、調査統計局スタッフの研究論文も公表しています。

―SOMPOインスティチュート・プラスでは、どのようにご活用いただいていますか。

水ノ上様:
SOMPOインスティチュート・プラスでは、景気の基調判断を行うにあたって財やサービスの消費を重要視しており、半月ごとの更新の度に消費動向をモニターしています。「JCB消費NOW」も基本的には財総合とサービス総合を見ていますが、業種別に消費動向がわかる点も重宝しています。例えば9月後半にサービス業がかなり上向いている要因として、外食や宿泊の回復をしっかりと数字で確認できる点がとても助かっています。また、伝統的な統計に比べてタイムリーに足もとの動向を追えるため、亀田が経済同友会代表幹事である櫻田理事長へ行うマクロ経済情勢の定期報告を含め、グループ内に対する情報発信にも活用していますし、メディアのインタビューなどでコメントする際も、その根拠となる信頼性の高いデータとして引用しています。

オルタナティブデータは伝統的データにとっての「強力な援軍」である

―「JCB消費NOW」のどんな点を特にご評価いただいていますでしょうか。

亀田様:
当たり前のように思われるかもしれませんが、元データが「実際の消費支出データである」という点です。携帯電話の位置情報データや予約プラットフォームの会社が出している飲食店の来店人数などのデータも有用なのですが、これらは実際の支出データではありません。日銀調査部門を含むエコノミストは、現在の消費全体がどうなっているかを分析し、最終的にはGDP予想もしますから、実際の消費支出データというのは非常に有用性が高いのです。しかも、「JCB消費NOW」は、日銀の「消費活動指数」や内閣府の「景気ウォッチャー調査」といった公的統計とも動きがよく合致していました。日銀内では担当者ともよく話し合って、「JCB消費NOW」は速報性とデータの精緻さのバランスがよく、定点観測していく価値のある指標であると納得できたので、前述の通り積極的に活用していったのです。

具体的な例を出しますと、2022年の2月~3月頃、消費の先行き判断が分かれるポイントがありました。この時期、前年12月から続いたオミクロン株の流行が収束に向かっており、消費が持ち直す可能性がありました。しかし同時に物価の上昇が始まっており、消費がさらに落ち込む可能性も存在していました。私自身は、物価高よりも感染収束の影響の方が強く、春先から少しずつ消費が戻っていくという見通しを立てていて、その通りになるかどうかを「JCB消費NOW」で注視していました。結果的には、夏場に感染が再拡大したこともあって伸び率自体は当初予想比で下方修正されましたが、消費の持ち直しは続くという私の見立てが正しかったことを、「JCB消費NOW」でタイムリーに確認していくことができ、その後の公的統計でもそれが裏付けられました。こうした実体験が、「JCB消費NOW」への信頼につながっています。

ちなみに、「オルタナティブデータが伝統的な公的統計に取って代わるのですか」という質問をよく受けるのですが、私自身はこの2つをライバル関係のようにとらえるのではなく、「新しい情報が増えた」と考えています。伝統的なマクロやミクロの情報に加えて、民間のオルタナティブデータというリソースが加わったことは、いろんなデータを使うエコノミストからすると非常にありがたいことだと思っています。「強力な援軍がやってきてくれてうれしい」というのが私の気持ちですね。

消費行動の背景にある原理を、オルタナティブデータで解明していきたい

―SOMPOインスティチュート・プラスでは、今後どのように「JCB消費NOW」を活用していきますか。

亀田様:
マクロ経済チームに限って言いますと、「JCB消費NOW」をはじめとするオルタナティブデータを使ったマクロ調査というのを、他のシンクタンクよりも強く打ち出していきたいと考えています。これから立ち上がる少人数のチームが他の大手シンクタンクや金融機関の調査部がやっている調査と同じようなことをやっても、差別化につながりませんので。

また、分析をより広い分野に拡大していくことも考えています。例えば、「日本人は将来的な不安を感じているから消費が伸びない」という議論がありますが、その「不安」の中身が一体何なのかをデータに基づいて特定している分析はまだ少ないのです。将来の年金がちゃんともらえるのかが不安な方もいれば、明日のお給料が出るかどうかが不安な方、あるいはそこまで具体的ではないが漠然と不安だ、という方もいるでしょう。マクロ経済において将来不安と消費の関係というのは非常に重要なのですが、その関係性をデータで分析した例はあまりありません。アンケート調査などのサーベイデータと実際の消費データ、いずれも大容量のオルタナティブデータを意識していますが、それらを組み合わせることで、人々の将来不安の中身をより精緻に理解できれば、不安の一番根っこにある部分に働きかけるような政策についての議論も可能になると期待しています。

また別の分野になりますが、「最近の日本では経済格差が広がっている」という議論で取りざたされるデータも、実は現状では断片的なものしかなく、見方によって結論が違ったりするにもかかわらず、世の中でなされる主張が単純化されすぎていたりする、といった難しさがあります。このあたりも、政府や民間が新しいデータを整備していくことで、より客観的に現状を把握し、格差やその是正についての効果的な政策を議論していくことも必要だと思います。

本当の意味で将来のために有効な政策は何かということを、データに基づいて今よりもう少し理知的に提言する、というようなことを、当シンクタンクではいろいろと模索していきたいですね。

―最後に、「JCB消費NOW」へのご期待をお聞かせください。

1人のユーザーとしての個人的な要望になりますが、「JCB消費NOW」という完成されたサービスを立ち上げた経験から、就労者数や募集ベースでない実際の支払賃金など、労働市場関連のオルタナティブデータが入手可能になると、日本においても賃金フィリップス曲線の傾きの変化が生じるかどうかなど、目下の関心が高いテーマについて、新たな分析ができるようになると思います。難しいテーマとは思いますが、消費以外のマクロ経済分野にもオルタナティブデータの活用を広げていっていただきたいです。

また、「JCB消費NOW」には長くデータの作成と公表を続けていただくことを期待しています。オルタナティブデータは時系列方向のデータ蓄積が浅く、季節調整手法を適応するのが難しい側面があります。また、様々な景気局面を経験していないという点もあります。長期の時系列データが整備されれば、得られる知見やマクロ経済分析への用途も飛躍的に広がっていくと考えています。

(インタビュー日:2022年10月19日)

岡田 元宏
三重大学大学院医学系研究科 精神神経科学分野 教授
三重大学医学部附属病院 精神科神経科 科長
個人消費データ×精神医学が結び付くことで命と健康を守る、
価値ある情報に

三重大学大学院で精神神経科学分野の研究に取り組むとともに、同大学医学部附属病院で臨床医も務める岡田元宏教授。ここ数年、コロナ禍におけるライフスタイルの変化と自殺率の関係性や、新型コロナウイルス感染拡大と個人の消費行動についての研究に取り組み、論文を多数発表しています。そうした研究において、ライフスタイルの変化や個人消費行動の傾向を見るためのデータとして活用されているのが「JCB消費NOW」です。導入に至った経緯や、学術研究上の価値について、お聞きしました。

精神医学研究者として、人々の行動に影響を及ぼす心理・社会的要因を研究

―まずは、先生が現在取り組んでいる研究について教えてください。

私は精神神経科学分野の教授として、神経科学や精神神経薬理、分子細胞生物学などを主に研究しています。普段は、精神科医が処方する薬の作用などを、生物学的に解明することなどがメインです。

これに加え、私は「三重県公衆衛生審議会 自殺対策推進委員会」の一員でもあるのですが、日本国内の自殺率の変動と、自殺率に影響を与える「心理・社会的要因の解析」というテーマで2009年から研究を開始しています。

日本の自殺率は、2009年から2019年まで、10年以上にわたり、減少を続けていました。これは世界で最も自殺対策に成功した国に位置付けられています。これに一役買っていたのは、厚生労働省が財政的に支援してきた「地域自殺対策強化事業」だと思います。対策を、全国で画一的に実施するだけではなく、各地域の特性に応じて計画を柔軟に拡充したことが、自殺率の減少につながっていたのではないかと考えています。

しかし2020年以降、新型コロナウイルス感染症による大きな社会的変化の時期に、増加に転じました。これが「コロナ禍によって増加した」のか、それとも「別の要因によってコロナ禍の期間中に増加した」のかを科学的に解明することは、非常に重要なテーマです。さらには、「地域自殺対策強化事業」が対応できない要因によって増加したのか、それとも「地域自殺対策強化事業」の恩恵を最初から受けることができなかった、特定の集団によるものが増加したのか。ここを明確に把握しておくことが「地域自殺対策強化事業」の今後の修正に大きな影響を与えます。

―コロナ禍以降の自殺率の増加は、単に「コロナ禍によって増大した」とは言い切れないのですね。

実はコロナ禍での自殺率は、日本以外のOECD加盟国ではほとんど増加していません。むしろ減少している国の方が多いのです。

計算方法にもよるのですが、日本では若い世代や女性の件数が増えています。実はこれらの集団の自殺率は、コロナ禍前の2015~2018年頃に既に減少傾向の鈍化、あるいは最悪、増加傾向への転化が始まっていることが分かりました。つまり、コロナ禍前からの減少傾向の鈍化が、コロナ禍中に顕在化した可能性がある、ということですね。

個人消費の動向は、人々のライフスタイルの変化を読み解くための貴重なデータ

―こうしたご研究に、「JCB消費NOW」を取り入れられたのはなぜですか?

これまでは、経済的困窮、失業率の増加などが、自殺率増加の要因として知られていました。これは、バブル崩壊とアジア通貨危機(日本では山一ショックとして知られています)による、自殺率の増加に基づいたものです。しかし、リーマンショック時はこの要因の影響は非常に少なかったのです。また、リーマンショックからコロナ禍までの期間でも、経済的困窮や失業率の増加は、若干ながら自殺率増加に影響していましたが、コロナ禍の期間中はそことの関連性が見られなくなっていることが分かりました。

では、コロナ禍の自殺率の増加、あるいは減少傾向の鈍化に影響している要因は何なのでしょうか。それを究明するために、「JCB消費NOW」の、個人消費の動向が自殺率に与える固定効果をパネルデータで解析することにしました。

―パネルデータ解析と「JCB消費NOW」の関連について、もう少し詳しく教えていただけますか?

まず「コロナ禍におけるライフスタイルの大きな変化が影響している」という仮説を立てました。これは従来、観察されてきた自殺の季節性変動(自殺による死亡が季節によって変化すること)が、コロナ禍中大きく乱れたことに基づいています。コロナ禍という短期間の自殺率の季節性変動の要因の解析には、できるだけ細かくライフスタイルの変化指標を得る必要があるのですが、「JCB消費NOW」が提供する「半月」と「1か月」の間隔の、都道府県単位の個人消費の変動を見ることで、自殺率のパネルデータ解析が可能となりました。

実は何か良いデータはないかと、内閣府と経済産業省が発表している「RESAS地域経済分析システム」内の「V-RESAS(※)」を見ていた際に、「決済データから見る消費動向」として、「JCB消費NOW」のデータが使われていることを知りました。決済データの推移が、地域ブロック、業種、年代、性別といった、細かい項目別にデータ化されていることから、個人消費からライフスタイルの変化を読み解く指標として活用できると思い、導入を決めました。

―「JCB消費NOW」のデータによって、どのようなライフスタイルの変化が読み取れましたか?

例えば、業種別の決済データからは、居酒屋への支払いが激減したのに対し、酒屋への支払いは増加していることが分かりました。これは「家飲み」の増加を意味しています。もちろん家で飲むのが悪いということではありませんが、大勢の人と集まったり、コミュニケーションしたりする機会が減っていることが見受けられます。

その他にも、「旅行代理店、ホテルなど屋外レクリエーション関連の支出」が減少する一方で「コンテンツ配信などによる自宅でのレクリエーションの支出」は増加。あるいは、「ショッピングモールやコンビニエンスストアにおける支出」は減少している中で、「スーパーマーケットでの支出」が増加しているなど、さまざまな行動変容が伺えました。

―消費については統計局の「家計調査」なども活用されていますが、「JCB消費NOW」が今回のご研究に適しているのはどのような点でしょうか?

即時性と基礎になるデータの母数という点で、非常に優れていると思います。まず政府データは1年後の発表になることがほとんどです。さらに、若い世代のライフスタイルであれば、大学内でのアンケート調査なども手法としてはあり得ますが、母数が非常に少ないですし、偏りも出てしまいます。

国内1000万人のクレジット決済データをサンプルとした個人消費の動向を、最速で半月という間隔でアップデートできることは、短期間の季節性変動を正確に反映することにつながります。「JCB消費NOW」で示される個人消費動向は、経済指標に使用できるだけではなく、個人のライフスタイルの変化をタイムリーに読み取ることにも有用と考えています。

大学教員として学生と接する中で、若い世代のライフスタイルの変化を実感することは多いです。しかし学術研究としては、それを裏付けるデータが必須です。そうしたデータの一つとして「JCB消費NOW」の個人消費のデータは、手堅い根拠となり得るのです。

県境をまたいだ移動データの指標となる「From to指数」は大きな可能性

―「JCB消費NOW」の「From to 指数」のデータを基にした、「コロナ禍の範囲拡大と県境を超えた個人移動の消費動機との関係」に関するご研究もなさっていますね。

「From to指数」は、消費者の居住する都道府県と、実際に消費を行った都道府県との関係性を見ることができる消費指数ですね。これによって、どの都道府県の居住者が、どの都道府県で、どんな業種の店舗で消費したかを読み取ることができます。ホテルや大型アミューズメント施設を有する都道府県などへの県境をまたいだ移動データの指標としても利用価値があり、新型コロナウイルスの感染拡大要因解析にも有用でした。

どの地域の人が、どこに移動し、何をしたかを追跡できることで、コロナの感染拡大形式と個人の行動様式を解析することができるため、各都道府県のコロナ感染拡大防止施策にも有用だと思います。

現時点(2023年1月)では、新型コロナウイルス感染拡大防止のための移動制限は設けられていません。しかし今後、新たに、感染力が強く重症化リスクが高い新たなコロナ変異種の出現や、全く異なるウイルスによるパンデミックが出現した場合への対応策を、今回の経験から科学的に分析しておくことは重要だと考えています。少なくとも有効な治療法と感染防御法(ワクチンなど)が実用化されるまでの期間、ライフスタイルの変化や経済活動に負担をかけない、効率的な感染拡大抑制を目的とした行動変容への指針を示す解析結果が出せると考えています。

―先ほど、「JCB消費NOW」は経済指標に取り入れるだけではなく、個人のライフスタイルを読み解くデータとして有用、というお話がありましたが、個人消費のデータは、さまざまな分野の研究と結び付くことで、活用の場が広がるということですね。

そう思います。新型コロナウイルス感染症による社会変化や個人のライフスタイルの変化、さらには、それらがもたらす心理的な影響などは、1年目、2年目、3年目と刻々と変化しています。さまざまな研究についても、信頼性やバリューが確立しているわけではありません。ですから今は、時々のデータをこまめに分析し、積み重ねていくことが重要だと感じています。

できるだけ多くの研究を学術的なデータとして発信しておくことで、新しい生活様式の検証や、将来襲い掛かるかもしれない未知の感染症に備える上で、ますます価値を高めていくと思います。

政府データとしての活用が進むことで、学術データとしての地位確立を期待

―「JCB消費NOW」を活用していくにあたり、要望などがあれば教えてください。

個人情報がきちんと保護されているデータである点は、安心して利用できる長所です。しかし一方で、例えば、支出額の推移が、基本となる年と比較した変動値でしか分からないという点は、実態が見えづらく、不便な面もあると感じています。100万円単位での推移と、1億円単位での推移では全く意味合いが変わってきますからね。匿名性を確保した上で、全体の実金額などが分かると、より活用の幅が広がるのではないかと思います。

また、学術研究という点では、論文の査読(論文を学術雑誌で公表する前に、その学問分野の専門家が、内容を精査し公表すべきか否かを判定)に対応できる環境がさらに整うとありがたいですね。今回ご紹介した研究の論文では、内閣府などによる「V-RESAS」で採用されているデータということが決め手となり、データソースとさせていただきました。公衆衛生分野の学術論文の場合は、国が出す政府データが最も認められやすいデータソースとなります。政府データとしても公開されていて、できれば英語でも確認できるものがベストだと思います。そうした環境が整うことで、多くの研究者が利用し、「JCB消費NOW」の国際的な認知度も高めることができるのではないでしょうか。

現在、公開されている政府機関以外でも、活用が進んでいると伺っていますので、今後の展開に期待しているところです。

(インタビュー日:2023年1月19日)

※V-RESAS:地方創生の取り組みを情報面から支援するために、さまざまなデータを提供するサービス。内閣府官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局と内閣府地方創生推進室が運用。

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